第2回愛知県自転車の安全で快適な利用の促進に関する検討会議を傍聴してきました

第1回の検討会議の前に委員にむけて書いた記事はこちら。

第1回についての記事はこちら。

さて、第2回の今回は事務局が条例案を提出してきました。このあとは早速パブコメを募集し、それを受けて11月には第3回を開催という流れだそうです。そういえば愛知県は自転車活用推進計画も検討委員会を2回開催してパブコメでしたね。議論が深まったかどうかによらず会議を終えるというのは釈然としない部分もありますが、まあそういうものなのでしょう。

第1回の意見への対応

会議のはじめに「前回の会議で委員より出た意見に対する対応」というものが説明されたのですが、保険加入の義務化への疑問(自動車に比べると人身事故が重大化することは非常に少ないのにほんとうに必要なのか?)に対して「国が示す標準条例※では義務とされている」「世論調査でも義務とすべき声が多かった(51%)」「他の自治体の様子も見て入れることにした」といった回答が示されたのには失望を禁じえませんでした。少しはご自分の頭で考えられてはどうでしょう、と言いたい。

※「自転車損害賠償責任保険等への加入促進に関する標準条例」のこと。以下のリンクを参照してください。

さいわいこのあとの議論で委員のお一人より理性的な意見が出ましたので溜飲を下げることができました。

委員の発言抜粋

条例案を見ながらの意見交換です。

「基本的な責務」について

片山委員(OSCNじてんしゃスクール代表):県内市町村ですでにヘルメットや自転車保険について条例で定めているところがあるが、県が条例を制定したら市民はどちらに従うのか?

県民安全課:東京都の事例では、市町村に条例があった場合は適用除外としている。愛知県では、市町村のほうが義務が緩い場合には調整が必要となる。県に合わせてもらうか、その市町村を適用除外とするかのいずれかとなる。

東京都の件は寡聞にして存じませんでした。

第四十条 区市町村の条例中に、この条例に定める自転車損害賠償保険等への加入等に相当する規定がある場合は、当該区市町村の区域においては、第六章(第二十八条を除く。)の規定は、適用しない。

東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例(PDF)



嶋田委員(大同大学教授):市町村のヘルメット購入補助金についてもう少し詳しく

事務局:たとえば名古屋市では交通安全に関するチェックリストに記入して提出すると2千円の補助金が出る。他も千円前後。

名古屋市は例年ですと高齢者と小学生を対象に自転車安全講習を開催して受講者に補助金を出しているのですけど、今年は新型コロナウイルス対策としてチェックリスト記入のみを条件としています。金額については、

補助の金額の考え方でございますけれども、通常のヘルメットの価格が大体四、五千円というふうに私ども把握をしております。帽子型のもの、ちょっとおしゃれなものは8000円とか9000円とか高うございますけれども、通常一般にかぶられるものは4000円から5000円ということ、それで、その半分ぐらいの金額ということで2000円という想定をさせていただいたというところでございます。

名古屋市 平成29年  経済水道委員会 03月13日-01号

ということらしいです。趣味で自転車で乗っている人からすると、だいたい最低限まともなヘルメットが8千円、「ちょっとおしゃれな」ものが1万5千円くらいの相場かと思いますが、まあなんにしても千円二千円のためにわざわざ講習を受けたり申請書を書いたりしたくなるかというと大いに疑問です。受講者のちょっとしたごほうびとしては悪くないのですが、ヘルメット購入を後押しするまでの効果はないでしょうね。

伊藤委員(愛知県交通安全協会常務理事兼交通安全部長):自転車にまつわる事故が起きる背景には自転車利用者の運転のしかた、姿勢が大きくかかわっている。法令についてよく理解してもらうことが大事だと思う。豊橋市や豊田市では道交法の内容を条例中で繰り返し明示するなどしているので、愛知県でもこれくらいの厚みを持たせてほしい。

県民安全課:県の法令について管理する部署に尋ねたところ、他の法律の内容を条例に引き写すのはやめてほしいとのことだった。法律の内容について知らしめたいのであれば啓発活動などを通じてやってもらいたい。

伊藤委員の最初の発言ですが、警察が繰り返し発表する「自転車が関わる事故において自転車の6割(だか7割)に違反がありました」というデータに惑わされている感があります。実のところ、自転車事故の大半はクルマとの事故ですし、クルマ側に違反があった割合だって自転車より低いことはないです…と断言したいところですがそれを証明するためのデータを入手するには交通事故分析センターにクロス集計代金3万円を払わなくてはいけません。さすがに躊躇する金額です。

ただ、違反があった割合は正確にはわからなくとも、クルマと自転車どちらの過失がより大きいかについては、公開資料からわかります。ITARDA表番号:01-21GZ107によれば、クルマvs自転車の事故で、クルマ側が第一当事者となったのが59,766件、自転車(軽車両)側が第一当事者となったのが6,193件です。同程度の過失の場合はクルマのほうが第一当事者になりますので、「あきらかに自転車の過失のほうが大きいのは事故のうち一割足らず」ということです。ちなみに死亡事故に限ればそれぞれ229件と88件で、自転車が自衛できていないと死にやすいという身も蓋もない結果が出ています。

以上より、「自転車の安全」を掲げるからにはまず誰よりもドライバーを教育してもらわないと困るのです。なんでも県では平成26年に「愛知県交通安全条例」なるものを制定したそうですが、そちらには「高齢者、障害者並びに児童、生徒及び幼児」の交通の安全を確保せよとは書いてあるものの、自転車を守れとは一言も書いてありません。せっかくなので今回の条例に入れてもらいたいところです。

伊藤委員:先日Uber Eatsの原付による当て逃げ報道があった。今回の条例では「自転車利用事業者」の責務を定めているが、Uber Eatsは単なる仲介者であって自転車利用事業者は配達員だということになっている。ここをなんとか条例で引っ掛けられないか。

県民安全課:Uber Eatsに関しては配達をしている個人事業主が条例の対象となるという認識である。

これは誰もが苦々しく思っている点でしょうね。そのうち国交省がなんとかしてくれることを期待しましょう。

自転車交通安全教育について

高木委員(愛知県警察交通部交通総務課):自転車利用事業者の責務として「安全教育を行うよう努める」とあるが、個人事業主はともかく法人については「安全教育を行う」でよい。学校の長の責務も同様に「努める」とあるが、通学で自転車を利用する生徒についてはより高いレベルでの教育を施すようにしたい。鹿児島かどこかの自治体だったと思うが、通学に特化した条例があったはず。教育ではなく「指導」でもかまわない。

中村委員(愛知県教育委員会保健体育課):通学者だけ分ける理由はないように思う。指導については学校の取り組みのひとつであって、条例に入れるようなことではないのでは。

高木委員:教育となると非常にハードルが高いが、指導であれば比較的取り組みやすい。意識付けとして条例に書いてもらうのもありでは。

片山委員:リスクマネジメントとしての交通安全教育は重要。自転車保険を義務化しようというのに教育に及び腰というのはどうだろう。

片山委員からは別途学校における交通安全の取り組みについての資料が配布されました。まあとにかく授業以外にも子供に教えなくてはいけないことが山ほどあって大変そうです。交通安全教育に関してもやるべきことはしっかりと掲げてありますが、これを何時間かけてやれば子どもたちがしっかりと身につけられるのだろう、というところですよね…。前回の記事にも書きましたが、校外で受講できる自転車教室の開催を自治体がサポートする体制をしっかり作っておく、というあたりが、先生方の忙しさを考えると現実的かなあ、と思っています。

鈴木委員:主体としての学校には大学も含まれるとのことですが、小中高と同じレベルの教育を期待されても困るのでは。

まあ16歳になればバイクの免許が取れるわけですからねえ。自分で勉強すればいいという話はあります。でも大学に入って一人暮らしを始めて、日々の足として自転車にがんがん乗るようになった、なんていう若者にむけて、大学生協あたりからサポートがあってもいいんではないかなあ、ぐらいには思います。条例に書くことではないでしょうけど。

ヘルメット着用促進について

片山委員:学校の責務として自転車通学の生徒に対する努力義務が定められていますが、中学生になると通学以外のとき、たとえばクラブ活動なんかではかぶらなくなってしまう。通学に限定せずそういった活動についても含めてほしい。

上の中村委員の意見と同じですね。まあ学校の管理範囲がどこまで及ぶのかという話かと思います。

嶋田委員:ヘルメットについても大学でどうこうというのは無理ですよね。

事務局:ヘルメットをかぶろうという文化を作っていくことが大事ですので、ポスターの掲示などでも結構ですから協力していただければ。

文化を作るために条例を制定するというのはかなり違和感があるのですが、それはともかくやはり免許を取れる年齢になったら、学校が面倒を見るというのは無理のある話ではないでしょうか。

木村委員(市民・自転車フォーラム理事長):オーストラリアでは自転車にヘルメットを義務化したら利用者が3割減った。逆に松山市では高校生にかっこいいヘルメットを配ったところママチャリ利用者のヘルメット着用率が上がった。シェア自転車についてもヘルメットをかぶれということだと利用しづらくなる。

県民安全課:いまのところヘルメットは努力義務ということにしようかと。

木村委員:かぶらなくていいというのもあれなので努力義務でよい。ヨーロッパでも着用の努力義務があるが、インフラがしっかりしているのでかぶらない人も多い。

木村委員は、知り合いから聞いた話だが、と前置きしておられましたが、よいご友人をお持ちのようです。オーストラリアの件は1990年代前半の出来事で、下記の記事で触れられています。この記事内にはヘルメット義務化はシェア自転車となじまない、という記述もありますね。

そして、自転車利用者が減るということは自転車が危険になるということでもあります。英語では「Safety in Numbers」という言い回しになりますが、要するに多数派になるほど攻撃を受ける可能性が減るということで、自転車でいえば、利用者が増えれば増えるほど自転車が目立つようになり、またドライバーが同時に自転車利用者である割合も高くなるため、クルマが自転車に気をつけて運転するようになるということです。

「ヨーロッパでも…」はさすがに大雑把すぎですが、じっさいひとつの国でも自治体によって、場合によっては都市によって扱いが違ったりするので、海外における義務化の状況を把握するのは相当に困難です。いちおう参考リンクを貼っておきますが…。


中村委員:ヘルメットのところだけ、条例の主体として「高齢者の親族または同居する者」が出てくることに違和感がある。

事務局:高齢者の死者を減らしたいという一念からこのようにした

違和感ありますよねえ。子供じゃないのですから。先の「文化を作る」発言といい、事務局は条例を広報啓発活動の一環ぐらいにしか捉えていないのではないかと思えてきます。

保険について

伊藤委員:自治体によっては助成金が出たりする。加入しなくても罰則がないので、加入促進のためにはお金を出すことも必要ではないか。

事務局が用意した今回の資料には「各都道府県におけるヘルメット着用と自転車保険加入の義務化状況の一覧表」があったのですが、同じように「自転車保険の助成金制度がある自治体一覧」という表を作るべきですね。以下は、自転車屋さんで自転車を整備してもらったときに加入できる保険に助成金を出している自治体一覧です。

 

片山委員:保険の義務化には疑問を感じる。まずは教育だろう。教育なしにヘルメットや保険だけ強制しても安全にはならない。教育をきちんとすることでヘルメットや保険の必要性が理解してもらえるはず。

この文脈ではわかる話です。でもほんとうは「ヘルメットをかぶらないと危険だというのはおかしい」「必要なのはヘルメットではなく安全なインフラだ」と考え、訴えていく力を身に着けてほしいです。「あぶないことがわかった、自衛しよう」は個人としては賢い生き方ですが、みんなしてそのように考えていると世の中はいっこうに良くなりません。

木村委員:自転車保険は、クルマの任意保険や火災保険、クレジットカードの保険などに特約としてついてくることが多いので、確認してみるよう促すとよい。ただそういったものは同居家族に限定されていることが多く、大学生の一人暮らしだと使えなかったりするのでサポートが必要。

大学生協がよさげな保険サービスを提供していますね。支払い事例なども豊富ですし。

 

伊藤委員:クルマの任意保険に関しても努力義務すらないので、自転車もことさら対物補償つきの保険を義務化する必要はないのでは。

たしかこのときは、クルマは自賠責保険で対人補償はカバーされてるけど対物は任意だよね、みたいな話をしていたと思います。でも自賠責って死亡してもたかだか3千万円ですから、「クルマは実質ろくに保険が義務化されていない」と言ってしまっていいんじゃないでしょうか。

そして最後に、本日のMVPの発表です。

高野委員(愛知県自転車モーター商協同組合理事長):本日はここまであえて発言しなかった。この会議は「愛知県自転車の安全で適正な利用の促進に関する検討会議」という名前であるので、先だって策定された愛知県自転車活用推進計画を受けて、自転車の活用をいかにして進めるかという話をするのかと思っていた。しかし聞いていればヘルメットだの保険だの、自転車をがんじがらめにする話ばかり。こうしたら自転車に乗るのが楽しくなるのではないかという話がぜんぜんない。「促進」と銘打つならそのような話題があってしかるべきではないか。

事務局:この会議は、自転車同士あるいは自転車対歩行者の事故が増えているのをなんとかしたいということと、県民アンケートの結果ヘルメットや保険の義務化についての要望があったのを受けて開催している。自転車の楽しさについては、自転車活用推進計画のほうで太平洋岸自転車道の整備だとかそういった取り組みがある。

片山委員:たしかにこの会議に促進的な一面はない。他の部局で促進のための計画を作っているのはわかるが、市民というものは条例は気にするがそれ以外のことには興味がないものだ。

前回から「アンケート」と呼んでいるものは、正確には「2019年第2回県政世論調査」というもので、愛知県内に居住する18歳以上の男女3千人に、2019年11月1日~20日までかけて配布・回収したそうです。

ところでアンケートには「あなたは、自転車の交通事故を減らすためには、どのような方策等が有効だと思いますか」という設問があるんですね。これに対する答えは。

「交通環境の整備」がダントツでトップです。続いて「警察による指導取締り」。でも検討会議でこれら2つについてはまったくといいほど話題にあがっていません。これについては、前回の会議後に指摘できなかった自分も甘かったなあと思うところです。

ちなみに、条例の検討がいつごろ始まったのかについてですが、県議会の議事録を見ると2014年(平成26年)12月の警察委員会で以下のような発言があったことがわかります。

【塚本 久委員】

 自転車事故の加害者となり、多額の損害賠償が求められるケースが増えており、兵庫県では、自転車保険加入義務化の条例制定の動きがあるようだが、愛知県警においては、どのように考えているか。

【交通部長】

 自転車は身近で便利な乗り物として、幼児から高齢者まで幅広い年齢層に利用されているが、一つ間違えて歩行者に衝突すれば、相手にけがをさせ、場合によっては死に至らしめることにもなりかねない。こうした中、昨年12月に、交通の方法に関する教則及び交通安全教育指針が一部改正され、自転車の交通事故により生じた損害を賠償するための保険への加入の必要性が明記されたところである。

 兵庫県においては、昨年、11歳の小学生が自転車で走行中に62歳の歩行中の女性と正面衝突し、女性が意識不明の重体となり、裁判所が約9,500万円の賠償責任を認定した事故が発生している。

 交通事故の加害者となった場合の備えとして自転車保険に加入する必要性は高く、県警としても、交通安全教育など様々な機会を通じて自転車保険の加入について周知しているところである。

 しかしながら、自動車では車検制度と自賠責保険の加入が義務付けられており、車両の管理と合わせて保険の加入について管理することが可能であるが、自転車には車検制度等がないため、一律に自転車利用者に自転車保険への加入義務を課すことは難しいと思われる。

 また、安価で身近な乗り物である自転車の利用者に一定の金銭的な負担を強いることや、義務化に伴う罰則の取扱いなど解決すべき課題もあることから、本県においても、兵庫県で検討されている条例の推移について、高い関心を持って見守っているところである。

 名古屋市内は自転車事故の比率が高いため、関係部局に対する働きかけを実施するとともに、自転車条例の制定も視野に入れつつ、自転車安全利用の促進に力を注いでいきたい。

で、これをうけてまず名古屋市で「自転車安全利用促進に関する懇談会」が開催されたのが2015年(平成27年)12月でした。計4回の懇談会を経て「名古屋市自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が制定されたのが2017年(平成29年)、愛知県の検討会議はそれに続く動きということですね。県としては何も考えずにネーミングを踏襲したところ思いがけず突っ込みが入ったというところでしょうか。

検討会議に伝えたいこと

まず条例案の「基本的な責務」について。「自転車利用者」は「交通安全に関する法令を遵守するものとする」とあるのですが、

  • 子供にも適用されるのか? 道路交通法を理解するのは小中学生には無理では?
  • 免許を取れる年齢であっても自転車に関する細かい規則を守れるのか? たとえば自転車レーンを走ることのできる自転車に関する制限や、片側1車線のときと2車線以上あるときの走行位置の違い、左折専用レーンの通行方法などを把握しろというのは現実的なのか?
  • 歩道では徐行しなくてはならないと定められているが、それを守っていては自転車は(歩道を通るなら)著しく不便か(車道を通るなら)危険すぎて使えなくなるのでは?

といった問題があります。理念としてはご立派でしょうが、およそ果たせる見込みのない責務を条例で定めることに本当に意味があるのでしょうか。だいたい運転免許を持っている人間からしてろくに法令を守っていないのですよ?(全国で取締件数が年間6百万件)

自転車というのは運転免許を持っていなくても、たとえ子供であっても乗れるものです。それは世界中どこへいってもそうです。であれば、法令に関する理解が完璧でなくとも安全に利用してもらうにはどうすればいいかということを真剣に話し合うべきなのではないでしょうか。具体的には、県が基本的な責務である「自転車を安全に利用できる自転車通行空間の整備を推進」するためには何をすればよいのか、条例としてどういった項目があればそれがサポートできるのか、ということに議論の時間を割くべきでした。

そもそも、条例はかくあるべしという明確な方針のないままに検討会議を進めてしまったことにも問題があるようにも思えます。たとえば事業者の責務として「通勤のために自転車を利用する従業員に対し、定期的に点検し、必要な整備を行うとともに、両側面への反射材の装着その他の交通事故を防止するための対策、及び盗難防止等の適正な車両管理対策を講じるよう指導に務めなければならない」といったようなきわめて具体的かつ実現性の高い内容が定められているわけですが、これを上に挙げた自転車利用者の責務や県の責務と並べてみるとひどい違和感がありませんか? あるいは「条例とはこんなもの」と一笑に付されるのでしょうか。

そして今回の検討会議でいちばん残念だったことは、ヘルメット義務化の功罪についてほとんど議論がなされなかったことです。唯一、木村委員から「義務化は自転車利用者の減少につながる」との問題提起がありましたが、ここから派生するSafety in Numbers問題(利用者が減ると危険が増す)を含め

  • 自転車利用者が減ると健康リスクが増大し病気で死ぬ人が増え医療費が肥大化する
  • 事故に遭った際に頭部外傷で死亡する割合は歩行者のほうが高い
  • 自転車ヘルメットは自動車事故のような高エネルギー衝突を想定して作られていない
  • ヘルメットをかぶっている自転車にはドライバーが追越時により接近する傾向がある
  • ヘルメットをかぶっている自転車利用者はより無謀な運転をする傾向がある
  • ヘルメットをかぶっていない人が事故で亡くなると、原因を「ヘルメットをかぶっていなかったこと」にされてしまう(「被害者非難」という性犯罪でよくあるあれです)
といった既知の問題についてまったく言及がありませんでした。どなたかがシートベルトと同じではといった意見を述べておられたような気がしますが、自転車価格2万円に対してヘルメット価格5千円、しかも3年ごとに買い替える必要がある※というのでは、原価千円もせず廃車まで使えて髪型も乱れないシートベルトといっしょにするには無理があります(※ ヘルメットの取扱いについて | バイク用ヘルメット&ギア | Kabuto)。

自転車保険については以前の記事でも義務化の問題点を指摘しましたので繰り返しは避けたいところですが、私の主張としては

  1. 成熟した社会というのは弱者を保護し構成員に機会均等を保証するためにある
  2. 歩行者や自転車は交通においては弱者であり
  3. とくに自転車は安価で入手・維持できるため、社会的弱者にとって欠かせない移動手段でもある
  4. したがって歩行者と自転車は自動車以上に安全・快適に移動できる必要がある
  5. そのための投資を怠るばかりか、弱者に自身を保護するための負担を求めるのでは一体なんのための社会か

に尽きます。以下のグラフは愛知県自転車活用推進計画からの引用ですが、歩行者と自転車の安全が軽視されている現状はあきらかです。県民もそれがわかっているので、ほんのそこまで行くだけでも自動車を使い、渋滞が発生し、道が狭いからというので車道を広げ、邪魔な歩行者には歩道橋を渡ってもらい、車の流れが悪くなるからと歩車分離信号の導入をためらい、その結果歩行者や自転車はますます不便で危険になり、という悪循環から抜け出せずにいます。

あるいは自動運転に光明を見出そうと考える方もおられるかもしれませんし、私自身も人間が運転するよりはコンピューターのほうがよっぽど信頼できると思うのですが、どこを走ればよいのかよくわからない(あるいは好意的に言えば危険を避けるため臨機応変に走る場所を変える)自転車がうろちょろしているようでは、一般道走行の実用化は遠のくばかりでしょう。自動車依存から抜け出し、自動運転の実用化を後押しして交通死亡事故をなくすための思い切った次の一手が行政には望まれます。しかし残念ながらこの検討会議で作られる条例は、その助けにはあまりならないように思えます。

おわりに

自転車というものは言うまでもなく交通の一部で、交通はまちづくりの重要な構成要素です。また交通とは移動の権利の保証であり、それはすなわち福祉でもあります。ひとり親家庭の半分を占めるという貧困家庭にとっては公共交通機関料金は無視できない負担でしょうが(名古屋市交通問題調査会でそのような話題が出ています)、自転車を活用できればおおいに助けになります。それに、自転車がしかるべき環境を用意されたときに見せてくれるポテンシャルには驚くべきものがあります。たとえばこの「A Guide to Inclusive Cycling」というガイドブック(PDFファイル)を読むと、さまざまな障害をもつ人々が、あるいは高齢で体がうまく動かなくなった人々が、自転車を利用して日々の暮らしを豊かにする様子を、そしてそのためのノウハウを知ることができます。

かように自転車活用というのは広い分野にまたがる政策であり、総合的な取り組みが求められるのですが、多くの自治体では、道路関係の部局が自転車ネットワーク計画を作り、交通安全関係の部局が自転車条例を制定し、環境関係の部局が広報啓発を担当し、とバラバラに動いてしまっています。そのためどうしてもやることが「自分たちのできる範囲」に限定されてしまい、うまく前に進めていないような印象を受けます。逆に、首長のトップダウンで事を進めていたり、あるいは大きなチームに強い権限を持たせるなどしたところは比較的スムーズにいっているようですが、そうした「例外的な」措置を可能にするには、市民の高い関心を呼び起こす必要があるでしょう。読者諸氏におかれましては、そのための活動を地道に継続していただけますようお願い申し上げます。


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