JR熱田駅を跨ぐ熱田陸橋(市道豆田町線)に一方通行の自転車道が開通(前編)


令和4年3月末、名古屋市熱田区にあらたな自転車道が誕生しました。自転車道としては市内で5番目ですが、一方通行のものとしては名古屋市初、どころか愛知県初、下手をしたら東海地方や中部地方でも初となります。

場所はJR熱田駅の上を東西に跨ぐ熱田陸橋、路線名でいえば市道豆田町線です。これまで片側3車線あった車道の外側1車線を自転車道に転換しており、市道における車道空間の再配分事例としても初めてのものとなります。車道ないし歩道内の「余った」部分にしか自転車通行空間を作ってこなかった名古屋市としては、きわめて画期的な判断といってよいでしょう。

国土地理院の航空写真を拡大)

ただ、写真からわかるように、北側の歩道は陸橋の中央部分にしかなく、両端はスロープでなく階段で登り降りするようになっており、これを放置したまま自転車道を作ってしまったことについてはありがたくも申し訳ないような気持ちになります。

おおまかな背景

この自転車道が作られるきっかけは、名古屋市議会土木交通委員会の議事録(令和3年3月10日)によれば、地域住民のみなさんの要望によるところが大きいようです。

◎佐橋緑政土木局路政部主幹 令和3年度の予算につきましては、熱田区神宮一丁目の旗屋町交差点から同じ熱田区の三本松町の神宮東公園前交差点までの市道豆田町線、約700メートルの区間において自転車通行空間を整備する予定でございます。

 市道豆田町線につきましては、片側3車線の幹線道路となっておりますが、今回整備を予定しております区間につきましては、JR東海道本線及び名鉄名古屋本線をまたぐ熱田陸橋含む区間となっております。

 この熱田陸橋部分につきましては、連続した歩道が南側、片側のみという状況である一方、車道は跨線橋というところで自転車通行止めの規制がかかっておりまして、そういったことから、特に朝夕の通勤通学時間帯には、南側の歩道に歩行者と自転車が集中しまして、接触事故等の危険が高いというような状況となっております。

 そのため、地域の方々からは、自転車と歩行者の分離等、交通安全対策を求める声をいただいておりまして、平成25年以降には区政協力委員大会の要望等においても、陸橋部の交通安全対策を挙げられているというような状況でございます。

 そこで、当該区間の交通量調査等を行いながら、交通管理者である愛知県警さんと協議をずっと続けていきました結果、車道の第1車線部分、陸橋分につきましては、そこの部分を自転車道として整備することとしまして、これによって歩行者、自転車、自動車がそれぞれ安全に通行できるようになるというふうに考えております。

市の担当者さんの話によれば、歩道上の歩行者と自転車の接触を解消するためにとりうる手段が、橋梁という特殊な条件ゆえ非常に限られており、大きな構造変更を要しない「自転車道の追加」という手法が現実的な解として検討の俎上に載ってきたところに、令和2年(2020年)の新型コロナウイルスの流行によって電車・バスといった公共交通機関が利用しにくくなったのを受けて、国交省より自転車の通行空間整備を進めるべしとの大号令がかけられ(『自転車通勤・通学の促進に関する当面の取組について~「新しい生活様式」を踏まえ、一層の促進を図っていきます!』)、時代のニーズにもマッチしているということで最終的に採用されたといったような流れのようです。

少し残念な点があるとすれば、まずはこの計画が事業開始まで明らかにされなかったという点でしょうか。名古屋市では毎年、年度末ごろに「名古屋市における道路整備の計画について」という文書を公開しており、この中で自転車通行空間整備についても路線名や距離がある程度明らかにされているのですが、この文書で熱田陸橋の自転車道整備計画について言及されたことは一度もありません。もちろん、この文書がそもそも計画のある全路線について網羅的に書かれてたものだというわけではないのですが、一車線減らすというそれなりに話題性のありそうな整備計画であれば掲載されてもよさそうなものです。また、自治体の作る自転車活用推進計画は、具体的な自転車ネットワーク整備計画とセットになっているものなのですが、名古屋市は自転車活用推進計画に続いて「自転車利用環境整備方針」を策定する予定であるにも関わらず、そのための会議である「名古屋市自転車利用環境整備推進会議」は長い間開催されていません。こういった背景から、名古屋市民は「次はどこに自転車レーンが作られるのか?」と知りたくとも知りようがない状態です。

さらには、この計画を最終的に公表したのが、名古屋市ではなく、国交省の出先機関である中部地方整備局名古屋国道事務所だった(そして名古屋国道事務所の発信力は名古屋市とは比べ物にならないほど小さい)という点もいささか気になりました。しかも単一の計画としてではなく、名古屋市全体の自転車ネットワーク整備計画(「安全・安心な自転車通行空間の更なる創出へ~自転車ネットワーク整備計画について~」)の一部という扱いです。ただし、このようないわば「こっそりと進められた」計画であったからこそ、この整備スピードが実現できたのでは、という見方も可能ではあります(詳しくはおまけコーナーで)。

一方通行自転車道とは

もともと自転車道というものは「並走する車道とは独立した車道(道路交通法第十六条第四項)」ですので、特に交通規制をかけなければ対面通行ということになっています。ところが、平成23年11月から4回に渡って開催された有識者会議「安全で快適な自転車利用環境創出に向けた検討委員会」で作られた提言において「自転車道における自転車交通の整序化や交差点での円滑な交通処理を図るため、一方通行規制を原則とすることについて検討すること」との一文が盛り込まれてしまいます。関係する発言を委員会の記録から拾ってみると

対面通行の自転車道はすれ違いや追い越しといった場合に危険である。分離工作物は、縁石でも利用者にとっては危険性が高く、設置しない方が望ましい。自転車レーンの方が望ましいという意見には賛成。車と同じ方向に走行するといった意識付けが重要。(第2回議事概要より)

対面通行の自転車道は、信号交差点での処理、沿道出入りの処理、小交差点での安全性、幅員不足の場合は自転車同士の交錯による危険感増加、などの課題が指摘されているので、配慮事項として記述すべき。(第2回後の追加意見より)

などといったものがありますが、すれ違いや追い越しが危険なのは対面通行だからではなく道路が狭いからですし(それは車道を見れば明らかですよね)、交差点処理はすでに対面通行自転車道を普及させている海外に倣えばいいだけの話です(それが簡単だとは言いませんが、実現にあたっての課題を検討することぐらいは最低限やってもらいたいです)。しかし残念ながらこの流れはその後も変わることなく、全国の自治体で教科書的な扱いを受けている「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」においても

自転車道については、普通自転車に当該自転車道を通行する義務があるため、一方通行規制を実施する場合は、目的地へ向かうのに遠回りになることで沿道施設への出入りが不便となり沿道の地域住民や自転車利用者等の理解が得られにくい場合はあるが、双方向通行の場合は、自動車と逆方向に通行する自転車の出会い頭事故の危険性、交差点内での自転車同士の交錯の危険性、単路部における快適性の確保などの課題があることから、これらを踏まえて自転車道は一方通行を基本とするものとする。

と書かれてしまいました。このような方針には大いに問題があり…とひとくさり反論をぶち上げたいところではありますが、本件については私よりもよっぽど詳しい方が分析を重ねた記事がありますので、以下に紹介させていただいて、肝心の新設自転車道の紹介に移りたいと思います。

写真で見る熱田陸橋自転車道

東側から見ていきましょう。西向きに進むので、左手、つまり南側の自転車道を走ることになります。


橋の手前で通れなくなる第一車線

橋の手前の区間。ゆくゆくはこの区間にも自転車道が整備されるらしいです。

今回、令和3年度につきましては、旗屋町交差点から神宮東公園前交差点というふうに御説明させていただいておりますが、今後、図面でいきますとそのまま右のほうに進んでいただくことになるんですけれども、神宮東公園前交差点から500メートルほど行ったところに堀田通五丁目という、空港線との交差点がございます。市道豆田町線は、そこから先、東側は片側2車線の道路となっております。道路の断面が異なりますことから、一旦は堀田通五丁目交差点までの整備ということで、交通管理者様とも整理をしているところです。(土木交通委員会令和3年3月12日

が、いまのところは車道は片側3車線。陸橋に入ると片側2車線になりますから、第一車線が第二車線に合流するわけですが、自転車のための退避ルートとかは特になく、けっこうなスピードで流れる第二車線にクルマといっしょに合流しなくてはいけません。危険ポイントその1です。ここは第一車線をすべてふさいでしまうのではなく、右半分ほどは路肩として自転車が通れるようにするとよいでしょう。

交差点。自転車横断帯は消されてしまっている(というか消えてから補修されていない)のですが、ここの歩道は自転車通行可ですし、利用実態としても歩道を走る自転車が大半のはずですので、まだ残しておいてもよかったのではないでしょうか。歩行者信号にも「歩行者自転車専用」の補助標識がついたままです。ただ元の位置だと外側すぎて車道通行自転車の挙動が意味不明になるので、横断歩道を交差点側に広げた上で、自転車通行帯も交差点にもっと近い位置に設置するといいでしょう。



交差点を過ぎると、橋を通らない人むけの側道が分岐していまして、この分岐までのあいだはなぜか自転車専用通行帯になっています。これはちょっと意図がよくわからなかったのですが、名古屋市にお話を聞いたところ、反対車線、北側の道路に駐車需要があるため、柵のある自転車道をあえて避けたということでした。ええ、わかります、とんでもない話ですよね。あとで補足しますが、このスピードでの整備を実現したいと思うのであれば、それなりに妥当性を帯びた判断ではあるのです。もちろん、スピード重視といいながら何の役にも立たない矢羽根ばかり作ったせいでかえってまともなインフラの普及を5年も10年も遅らせてきた市町村の姿勢を批判する私としても、手放しで褒めているわけではありません。しかしこの一歩は間違いなく大きな一歩であり、多少の不出来には目をつぶってもいいと思わせるほどの革新性があるのです。
ということで自転車専用通行帯はさておくことにして、分岐地点を見てみますと、クルマの速度を低下させる仕組みがほとんど見られません。いちおう、道路構造よりも分岐の角度を急に見せかけるためのゼブラが描かれてはいるのですが、クルマがそれを踏まないように走ることは、経験的にいって期待できません。また側道に進んだクルマは、自転車専用通行帯と横断歩道とを連続して、しかし少しだけ間隔を空けて交差しますので、どちらかを見落としてしまうことがあるのではないかと心配になります。危険ポイントその2。

分岐部分の修正案。
自転車の優先権を明確にするとともに構造物(赤い一点鎖線)で左折車の徐行を促す。

このあたりの処理は物理的にも政治的にも難しそうな雰囲気は伝わってくるのですが、まずは自転車の安全確保のために、自転車専用通行帯を自転車横断帯として、自転車側に優先権があることを明確にしたいです。自転車専用通行帯のままですと、側道に入りたいクルマと自転車とどちらが優先なのか非常にわかりにくいです(道交法の左折に関する条文を真面目に読んでみてください)。可能ならば、自転車が通る箇所と横断歩道部分とをまとめて嵩上げして、スムーズ横断歩道ならぬスムーズ横断島を作り、クルマの減速を強く促したいところではあります。


分岐をすぎるといよいよ自転車道のはじまりです。自転車道が設置されていると、普通自転車はその自転車道を通る義務がありますので、併設される歩道は「自転車通行可」とはなりません。標識にも「自転車通行可 ここまで」とありますね。ここまで歩道を走ってきた自転車は、横断歩道を渡り、フェンスの隙間を通って自転車道に入る…ことになっているのですが。


フェンスの開口部がちょっと狭すぎるのもあって、自転車がこのようにすーっと歩道に入っていきます。ここは開口部をもう少し広げた上で、路面に矢印を描いたり「自転車はこっちを通ってください」と案内看板を設けたりしたほうがいいでしょう。

それから、標識が4つ固まって設置されているのですが、ちょっとこれは人間の認識能力を高く見積もりすぎのように思えます。「歩行者通行止め(歩道部分を除く)」標識って、歩道があれば歩行者がそこを通れるのは一目瞭然なのだから不要ではないでしょうか。あと自転車道一方通行標識も、開始端にあってもあまり意味がありませんから、思い切って省略してもよかったかも(まあ交通規制基準には原則的に設置せよとあるのでなかなか難しいでしょうが…)。



自転車道と歩道との間のフェンスですが、必要な箇所にはこのように開口部が設けられています。開口部の自転車道はしっかり嵩上げしてあって、出入りに困ることはありません。車道との間にある柵も路面の嵩上げにあわせて高くしてあるのが細やかな心遣いを感じさせます。あと自転車一方通行標識が法定のもの(326の2-A・B)でないのが謎です。将来対面通行にすることを見越して、市町村の権限で撤去できるようにするためだったりするとうれしいですね!(市役所西庁舎を見ながら)



橋を渡って西側にも開口部が。こちらは歩道側に街路樹が植えられているので、そのスペースを利用して歩道側にスロープが作られています。画一的に自転車道を嵩上げしていないところが素晴らしいですね。


橋を降りて交差点に向かいます。ご覧の通り自転車が並んで走れるほどの幅があるので、追い越しも(ちょっと声をかけて左に寄ってもらえれば)さほど難しくありません。


区間終点の西側にやってきました。自転車道は自転車横断帯に接続され、横断した自転車は歩道を走ることになります。写真からわかるように交差点の先は左直直右右の片側5車線構成になっていて、ここで1車線減らすにあたってどの車線を減らすべきかというのを調べるには相応の手間と予算がかかるでしょうから、とりあえずの処理としてはこうするしかないのでしょう。


ところでこの自転車道の終端に「↑信号確認」と書かれた看板が設置してあるのですが、この信号の絵が自動車用のものになっています。しかしながら交差点に設置されている歩行者用信号には「歩行者・自転車専用信号」の補助標識がついていますから、自転車は歩行者用信号に従わなくてはいけません。正しい絵の看板に交換したほうがいいですね。


それからもうひとつ、こちらの逆走禁止看板ですが、これを見た自転車利用者はふつうに歩道を走るだけだと思います。自転車がどうすべきなのか、「橋の反対側まで自転車の歩道通行は認められていません」「反対車線の自転車道をご利用ください」などともっとはっきり書かないとわかってもらえないのではないでしょうか。逆走禁止については法定の「車両進入禁止(303)」に補助標識「この自転車道」をつけておいてもらえればと。

長くなってきたので反対車線は後編に。

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