最新かつ長年の実績を誇る交差点設計「Protected Intersection」

自転車レーン(自転車専用通行帯)整備において交差点部の設計というのは頭の痛い問題です。

懸案事項はいろいろありますが、まず考慮しなければならないのが (A) 自動車左折時の巻き込み事故。国交省の「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」では対応方法が2種類挙げられています。
  1. 「交差点に差し掛かったら自転車レーンとクルマのレーンとを混ぜてひとつの車線にして、いっしょに走ってもらおう! そうすれば巻き込まないよね!」

    これについては提案のすぐあとの段落に「不安に感じる自転車利用者が存在することに加え、混在して一列で通行する通行方法を自動車、自転車相互に周知することに課題がある」と書いてありまして、まったくその通りで困ります。つまりクルマと同じ車線で走るのが怖い自転車は歩道に上がっちゃうでしょうし、そうでなくても合流して一列になるなんてありえないわけです(二列のまま並走するに決まってます)。
  2. 「自転車だけ停止線を前に出して、クルマからよく見えるようにしよう! オフセットは自転車一台分ぐらいでいいかな! あと自転車専用信号」

    停止線を前に出す意味があるのは、信号が青になったばかりのときだけですし、自転車一台分だとトラックみたいな大型車からは死角です。

    出典: トラックの死角
    また、巻き込まないまでも、左折するクルマが自転車レーンを塞いでしまいますし(自転車レーンと横断歩道の間が空いているので、ほぼ間違いなくクルマは横断歩道手前まで進出する)、そうなるとそれをよけようとした自転車がどう動くかわかったものではありません。

続いて右左折の問題、もうちょっと詳しくいうと (B) 赤信号で左折できない件、それに (C) 二段階右折するときにどこで待つか、です。
現状、ほとんどの自転車は、歩道を走っていようが車道を走っていようが、右左折のときは歩道上を歩行者と同じように通行しています。つまり、車道を走っている自転車でも、クルマの信号が赤だったらひょいっと歩道に上がって左折するか、交差する横断歩道を渡って右折するのが一般的です(まじめに停止している方はご苦労さまです、これからもがんばってください)。しかし自転車が歩道を走ってよいのは安全のためにやむを得ない場合だけと道交法に定められていますし、現在は普通自転車歩道通行可とされている道路であっても、自転車レーンが整備されると原則的には規制が取り消されて歩道通行不可となります。原則的には。ですから自転車も、赤信号では左折できませんし、右折時にはいわゆる二段階右折をしなくてはいけません。たとえば北進から右折して東に向かうとき、「信号が赤だ→東西方向の横断歩道は青信号だから道の東側に渡っておこう→お、南北方向の横断歩道が青信号になったから道の北側に渡ろう→そのまま東へ」と信号1回分待てばよかったのが、2回分になるわけです(南北の信号が青になるまで待ったあと東西の信号が青になるまで待たないといけない)。
(B) 赤信号での左折を可能にするには、いまのところ車道のいちばん左車線を本線から分離して交差道路の合流するようにする方法(左折導流路というそうです)が提示されています。

しかし、見ての通り左折自動車が自転車レーンを横切る形になって危険ですし、信号待ちで列ができても機能するようにするためには導流路をけっこう長くとらないといけません。
(C) 二段階右折については、これはもう不便になるのはしょうがないとして、ガイドラインでは滞留スペースを設けましょうという話になっています。

これはこれでありがたいのですが、図にあるように滞留スペースを確保するために歩道を切り込むと、自動車が左折するときの曲がりが大きくなって、スピードが上がってしまう懸念があります。また、停止線が前後に2箇所あることになりますので、間違いなく直進する自転車が滞留スペースまで進出しようとします。

これらの問題に対する回答が「Protected Intersection」です。何を何からprotectするintersectionなのかというと、歩行者と自転車を自動車から守る交差点です。

動画に沿って説明します。まずなんといっても特徴的なのは交差点の四隅に設置された縁石、corner refuge islandです。

この縁石の役割はいろいろあるのですが、上の図(日本にあわせて左右反転してあります)で示すように自転車の滞留スペースを明示し、保護することがまずひとつ。ご覧の通り自転車は常時左折可なのですが、滞留スペースが確保されているので、信号待ちの列でつっかえて左折できないということがありません。
それから、このislandが設置されたため必然的に前方にオフセットされた停止線(forward stop bar)。
自動車は横断歩道の手前で停止しますが、自転車と歩行者は青く図示されている停止線まで進めます。自転車が交差する横断歩道を通過する際には、当然ですが歩行者に優先権があります。ちかごろは横断歩道を渡ろうとする歩行者をクルマが妨害すると警察が積極的に取り締まっているおかげか、少しずつ「歩行者優先」が浸透してきているようでなによりです。
この停止線は、図のように、右から来て二段階右折しようとする自転車も利用します。
停止線が大きく前にオフセットされているため、左折しようとするクルマが停止中に自転車を見落とすことはありません。
また、自転車と歩行者の横断距離が短縮されるため、交差点内で事故にあう可能性が少なくなります。
自転車と歩行者の横断位置は、クルマの車線から大きく左に離れた場所になります。
すると、左折するクルマは自転車・歩行者の横断帯と正対することになり、広い範囲を視界に収めることができますので、巻き込み事故を防げます。
ただし、クルマの通過速度が高くならないように、corner refuge islandの形状によって隅切り半径を小さくしてあるのが工夫ポイントです。
あとは、信号についてもクルマの右左折を別フェイズにしたり
いわゆる歩車分離方式にしたりといったくふうがされています。
ちなみに歩車分離だと自転車同士の交錯が心配になりますが、実は人間とはよくできたものでそうそうぶつからないようです。下記ツイートで紹介されていますが、オランダのフローニンゲンでは29の交差点で歩車分離方式が採用されているのだとか。

まとめ

さて、それでは自転車レーンを含む交差点の諸問題にprotected intersectionがどのような解決策を提供しているかをもう一度見てみましょう。

(A) 左折時巻き込みの危険性
  • 自転車レーンを交差点外側にオフセットして、左折時にクルマが自転車レーンに正対するようにする
  • 自転車の停止線を大きく前に出して、停車中のクルマから自転車が確実に見えるようにする
  • corner refuge islandで隅切り半径を小さくしてクルマの通過速度を下げる
(B) 赤信号で左折できない
  • 自転車レーンのみ常時左折可としている
  • 左折するクルマが直進する自転車と交錯することはない
  • 赤信号で停止した自転車の滞留スペースを確保し、左折の邪魔にならないようにしている
(C) 二段階右折の問題
  • 右折用に別途滞留スペースを設ける必要がなく、停止位置は一箇所なのでわかりやすい
  • corner refuge islandを設置することで滞留スペースを確保しつつ隅切り半径を小さくすることに成功している

2017年の自転車活用推進法施行以来、全国の自治体で自転車活用推進計画が策定され、それに基づいて自転車インフラの整備が進められていますが、自転車の活用を推進するに足るレベルのインフラの整備は困難であるとの見方が主流で、その一因は交差点設計の難しさにあります。そうした困難に直面する方々のために、本記事が少しでも助けになれば幸いです。

付録1

protected intersectionが日本で作られるとどんなふうに見えるのか、こちらのブログで図案が紹介されています。記事本文は、アメリカでprotected intersectionが最初に導入されたソルトレイクシティの話題です。


付録2

アメリカではこのprotected intersectionが非常に安全かつ効果的であることが認められ、National Association of City Transportation Officials(カナダを含む北米各都市の交通局連合)がたいへんわかりやすい設計ガイドラインをまとめています。


とくに、「Don't Give Up at the Intersection」というセクションでは、protected intersectionの詳細な解説のみならず、空間が限られている場合にどういった要素を残すべきか(あるいは省略してよいか)といったところまで踏み込んで書かれており、交差点設計に関わる人には必読といってよいでしょう。おすすめです。

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