令和7年度第1回岡崎市自転車活用推進協議会を傍聴してきました


人口では愛知県第3位を一宮市と争う岡崎市ですが、自転車活用推進計画に関しては一宮市に遅れること2年、2022年(令和4年)3月に策定されました。これについては私もパブリックコメントを提出したのですが、市が作成した回答は令和3年度第3回岡崎市自転車ネットワーク検討協議会の議題にあがったものの、協議会ではさしたる意見もないままに公表されてしまいました。内容的にも、もっとも肝心な通行空間整備に関する意見に対しては『令和2年11月に策定しました「岡崎市自転車ネットワーク計画」の計画内容となりますので、自転車ネットワーク計画改訂時の参考意見といたします』という扱い。そういうことならばとネットワーク計画の改訂を待っていたところ、岡崎市自転車活用推進協議会というあらたな会議体が設置され、ネットワーク計画の見直し方針について話し合われるということでしたので、傍聴に行ってきました。

この協議会、名簿を見ていただくとわかりますが、総勢18名とけっこうな大所帯で、さぞかし多様な意見が活発に交わされるのだろうなと期待していったのですが、現実は厳しかったです。ひとことで言えば、「自転車を活用推進しよう」「自転車に乗る人をもっと増やそう」「自転車に乗らない人たちを遠ざけているバリアを解消しよう」といった雰囲気がほとんど感じられませんでした。もちろん自転車活用推進計画自体が多岐にわたる施策を取り扱う、ボリュームの大きなものであるため、話題が散漫にならざるを得ない面もあることは理解できますが、それにしたってそれなりの取捨選択は必要ではないかと思うのです。自転車活用推進の最大のキーポイントである自転車通行空間整備、この話題にこそ時間を割くべきだと思うのですが、結局2時間の会議のうち終盤の15分しか使われず、しかも内容は「令和4年に1kmしかなかった自転車ネットワーク路線整備延長を令和12年までの8年間で120kmにするという目標を立てたが令和7年までで12kmしかできなかったので目標を下方修正します」というもの。

道路整備は難しいです。でも日本の自転車が抱える問題の多くは、難しい道路整備をしないまま50年以上を無為に過ごしてきたことが原因です。このまま手をこまねいていたら、次の50年もあっというまに過ぎてしまいます。そうならないように、解決のためのアイディアを出しましょう。いままでやっていなかったことをやりましょう。できないことがあればできるようにするにはどうすればいいか考えましょう。忙しい各所の重鎮18人をわざわざ1箇所に集めて2時間顔を突き合わせて「やっぱり難しいですねえ」だなんて情けなさすぎて涙が出ます。かくいう私も「こうすればうまくいく」という手札があるわけではありませんが、大まかな方針は上述のパブコメで示した通りです。

自転車活用推進計画の肝となるのが自転車通行空間整備ですが、日本全国どこの自治体でも、ほんとうに役に立つ通行空間はどういうものなのか、それを作るためにどうすればいいかを考えることを放棄して、国のガイドラインの引き写しに終始しています。岡崎市にはそのようなことをしてほしくないのでこうして意見を送らせていただいています。
まず「道路空間再配分等を行っても」「整備が当面困難」といった場合、「再配分」には「車道からの転換」が含まれないことが暗黙の了解となっています。このような前提は捨ててください。車道を減らせばどこの道路であっても自転車通行空間を作り出せます。もちろん車道からの転換が困難でないとは言いませんが、だからといって暗黙的に選択肢から外すようなことはしないでください。望ましい表現は(あくまで表現です。内容はちっとも望ましくありません)「本来整備すべき完成形態での自転車通行空間整備のための道路空間再配分等が当面困難な場合」です。
次に、「困難」という言葉のカバーする範囲をいくらでも広げられるという問題があります。所轄署に反対されたら困難? 予算を獲得できなかったら困難? ひょっとしたら上司を説得できなかったことも困難と言えるのではないでしょうか。このような調子では本来整備すべき形態にいつまでたってもたどり着けません。安易に「困難な場合」などというべきではありません。
さらに、「車道通行を基本とした暫定形態(矢羽根型路面表示)」では「車道を通行する自転車利用者の安全性向上」は実現できません。以下に理由を列挙します。
(中略)
こうした「安全に寄与せず」「誰も使わない」インフラを整備することは、単に予算の無駄遣いというだけでなく、本来整備すべきであった完成形態のインフラの完成をより遅らせてしまうことにつながります。
繰り返しますが、車道の再配分が簡単だとはまったく思いません。ですが、だからこそ、本計画では強い決意でもって再配分の方向性を示し、現場で交通管理者や地域住民との協議にあたる職員の後ろ盾となって勇気づける必要があります。

このテーマについてはどれだけでも書くことがあるのですが、あえてここで付け加えるとすれば、「移動の選択には冗長性と柔軟性がある」という点でしょうか。いま現在クルマに割り当てられている空間を自転車に再配分すれば、一時的には自動車は渋滞して不便になるでしょう。しかしやがて、これならばクルマよりも自転車で移動したほうがよいのでは? と考えて移動手段を転換する層が出現します(もししなければ、それは再配分が十分ではなく、依然としてクルマがもっとも便利なままだということです)。そうしますと、なにせクルマは数ある移動手段の中でも格段に空間利用効率が悪い乗り物ですから、クルマに乗る人が減ることで道路には空きが生じ、渋滞は解消されます。この現象はtraffic evaporationと呼ばれますが、もともとは逆のプロセス、すなわち「渋滞を解消しようとして道路を広げるとクルマの利便性が向上するので、他の移動手段からクルマへの流入が進んで、最終的にはより不便になったであろうクルマ以外の交通手段の利便性がクルマのそれと均衡するところまでクルマ利用が増える」というところから来ています(土木系の大学を出られた技官の方でしたら「ダウンズ・トムソンのパラドックス」について聞いたことぐらいはあるはずです)。

とはいえ、人間というのは変化を好まない生き物です(ひょっとしたら他の生き物もそうかもしれませんが)。traffic evaporationを実現するためのドラスティックな変化をどうやれば市民に受け入れてもらえるか、その点も大きなチャレンジであり、先行事例の研究と市民との対話が欠かせません。「関連計画としてこの◯◯計画を挙げるべきか要検討では」などと益体もないことに(嶋田先生すいません、きっと会議が盛り上がらないので話題提供していただいたのだとは思うのですが)時間を割くのをやめて、真に解決すべき困難な問題に立ち向かうため知恵を出し合うようにしてください。とくに実績らしい実績もない一般人にこんなことを言われてもこれっぽっちも響かないかもしれませんが、実績ある人が少なすぎて手が足りていないので、すいませんがいまのところはこれでご勘弁いただければと。

以上の提案、というよりむしろ苦言な気もしますが、は市の担当課職員に読んでいただきたいのは当然なのですが、同時に会長を務める松本教授に向けたものでもあります。これまで松本教授が座長を務める会議はいくつか傍聴してきたのですが、とりわけこの岡崎市の会議においては積極的に議論の方向性を誘導する場面が目立ち、またその方向性にしても自転車利用者のルール、マナー違反を糾弾するような内容が多く、通行空間整備が進まないことについての叱咤激励の言葉のようなものは聞かれませんでした。どういった心づもりなのか、機会があればぜひうかがってみたいところですが、市の担当者の方々も、この会議がほんとうにこのような状態でよいのかどうか、ご自身に問い直してみてはいかがでしょうか。

他、傍聴中に気づいた点を列挙しておきます。
  • 自転車プローブデータという安価なデータセットでなにかしたくなる気持ちはよくわかるのですが、シェアサイクルは年間8万5千件の利用(R6年度)に対して一般自転車は1日に7万トリップ(H23年)あるわけですし、利用者層は限定的、乗車目的も大きく異なっています。データの使いどころはしっかり見極めてください。
  • 「名古屋市では自転車に乗る外国人が間違えて高速道路に進入する事案が増えている」との発言がありましたが、2023年までの名古屋高速の資料では確認できませんでした。議事録にする際には事実関係の確認をお願いします。
  • とはいえ日本の自転車関連ルールは非常に分かりづらく、とくに「止まれ」標識の形状が国際的にほぼ標準の八角形ではなく逆三角形になっている点、それから自転車がクルマと同じように右折することが許されていない点については注意喚起が必要かと思います。外国人向けのガイドブック…は全国各地の自治体が一生懸命作っているようですがそんなものは警察庁でまとめて作ればいいので、わかりやすい看板や路面のピクトグラムなどの整備を推進しましょう。
  • 駐輪場の設置数をアウトプット指標にしていて、目標は達成できたとしていますが、配布された資料の内容では「収容台数が需要に対して十分であるか」「駐輪場の分散度合いや施設(駅)入口への距離、ラック同士の間隔といった使いやすさはどうか」を判断することができません。嶋田教授からも、エリアごとの過不足がわからないとの指摘があったはずです。計画そのものの改訂が難しければ資料だけでも対応をお願いします。
  • 交通安全教室について、開催数をアウトプット指標にしていますが、これも最低でも参加延べ人数としないと実態との乖離が心配ですし、もっといえば年齢層ごとの参加人数も把握し、幅広い世代へまんべんない教育を実現していただきたいです。
  • サイクルスポーツイベントについて、岡崎市サイクリング大会だけが頼りではぱっとしないということのようでしたが、東海シクロクロスを誘致されるとよいのではないでしょうか。あとは絆の森のマウンテンバイクコースが常設になれば入場者数をカウントできる気がしますが、このところ関連報道をさっぱり見かけないので井上さんに状況をおたずねしたいところ。
  • 自転車のマナーが非常に悪いとの発言がありましたが、そりゃ安全&快適を両立できる通行空間が存在しないわけですから、個人の裁量で車道と歩道からそのような場所を都度選びだして道路上を移動するしかないのです。ルールを守れというのは簡単ですし正しいことをした気になりますが、ルールを守ることに合理性のない道路を放置したままそれを言うのは自己満足にすぎません。関連して、自転車の危険性を見える化する必要があるのでは、といった発言もありましたが、その前に道路上の自転車の居場所のなさを見える化するべきではないでしょうか。
  • とはいえ、実際に事故が起きているのであれば、その詳細を県警に提供していただいて対策につなげることも必要でしょう。ただし事故原票に書かれた「原因となった違反」をことさらに取り上げるだけでは的はずれな対策になることも。たとえばよくある自転車の一時停止違反ですが、「自転車にとって一時停止という行為は非常にコストが高く受け入れがたい」「自動車のように視界を遮るものがなく音もよく聞こえるため安全確認が極めて容易」「完全停止してしまうと再加速に時間を要し衝突の危険がある交差点内滞留時間は長くなる」「交差自動車の速度が速いと交差予定時刻の見積もりに失敗する確率が高くなる」「進行中の道路に『止まれ』がないだけで自分に優先権があり安全確認は不要だと勘違いするドライバーが大多数であることが非ドライバーには知られていない」などなど、考慮すべきこと、自転車利用者に伝えるべきことは山ほどあります。これらをすっ飛ばして「止まれと書いてある場所では止まるように」とだけ訴えるのは対策とは呼べません。
  • ヘルメットについて、かつては着用者と非着用者で致死率に大きな差があるように報じられていましたが、それはおそらく事故に遭っても死ににくい若年層や、自転車を趣味にしていて自衛に長けたサイクリストなどが主な着用者だったからであって、ヘルメットの着用が努力義務となったあとの令和6年統計では致死率はそれぞれ0.47%と0.51%、倍率にすれば1.1倍弱でしかありません。にもかかわらずヘルメットの着用を義務化すると、自転車はやめて自動車にしておこう、ということも増えてくるでしょう(高校生であったならば卒業後の移動の選択肢から自転車が外れることでしょう)。そのような施策を自転車活用推進と呼ぶべきか、大いに疑問です。
  • 無料駐輪場について、管理に人件費がかかるのだから有料にしないとやっていけないのでは、といった意見がありましたが、「自転車による交通が公共の利益の増進に資するものであるという基本的認識」に立ち返れば、駐輪場の維持管理はきわめて正しい予算の使い方といえます。
  • 自転車通行空間整備について、選択と集中が必要という発言がありましたが、いいわけにしか聞こえませんでした。ただし、矢羽根整備区間の整備前後の通行量測定によって整備効果の有無を検証するという動きは(近隣市町村ですでに実施されていることを差し引いても)評価に値します。とはいえ本来であれば「なにも整備しなかった区間」の対照データが必要ですし、測定前に結果の評価基準(たとえば通行量が◯◯%以上アップしていたら大成功、など)も決めておかないと、測定が終わってからいいように評価できてしまいますので要注意です。
  • これはアンケートについても同様で、市の施策の成否をアンケートに委ねるのであれば、集計前に評価基準を定めておくべきです。
  • 矢羽根に関するアンケートに添付する写真を、「将来的に自転車専用通行帯にすることを見据えた幅員構成になっている新設道路」のものとしたのは、会議でも指摘があったように「嘘くさい」ですしなんなら卑怯ですらあります。やめましょう。
傍聴記は以上となります。こうした会議は平日昼間にしか開催されないため、勤め人にとっては傍聴するのもそれなりの一大事かと思いますが、議事録からは読み取れない情報もたくさんありますので、ぜひ一度機会を作って市役所を訪れてみてはいかがでしょうか。

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