JR熱田駅を跨ぐ熱田陸橋(市道豆田町線)に一方通行の自転車道が開通(後編)

 それでは前編の続きということで、東西に走る路線の西側端交差点についたところで折り返して、反対車線の自転車道を走ります。


ちょっと写真を撮り忘れたのですが、交差点からここまでは自転車専用通行帯があります。歩道は自転車通行可。で、側道への分岐を越えると自転車道(歩道なし)というレイアウトなんですが、「側道への車に注意」ってこの看板、なんですかね。ほぼ間違いなく後ろから猛スピードで迫ってくる車に対して、自転車はなにをどう注意すればいいのでしょう。危険ポイントその3。

東側も同様の構造になってはいましたが、いちおう申し訳程度に自転車専用通行帯と車道との間にゼブラが描いてありました。しかしこちらがわの分岐には、左折する車両の速度を低下させるための仕組みはまったく見られません。ガードレール脇のゼブラだって…


ほらこんなふうにさらっと無視されます。自転車道を設計した大建コンサルタントも、検収した緑政土木局も、この分岐を安全にする工夫をなにひとつ考えなかったというわけではないでしょうし、様々な制約があったであろうことも想像に難くないですが、それでも結果として作られたものがこれだったというのは残念としか言いようがありません。

また歩道を走ってきた自転車の動線についても考慮されているように見えません。上の写真のような光景が目の前に広がったとき、橋をわたるためにはどうするのが正解か、ぱっと思い浮かびますか? 同様に、画面奥や左手からやってきた自転車も困ってしまうでしょう。


素人考えでは、上の写真の箇所に横断歩道+自転車横断帯を設置するのがよいのではないかと思います。


ご丁寧に縁石が埋めてあるので、撤去する必要があるでしょうが…。あと自転車道を歩道と間違えられると困るということで、歩行者通行止め標識があります。


少し進むと、奥から続いてきた歩道が階段になってしまうのが見えます。いちおう自転車押し歩き用の細いスロープがついていますが、ベビーカーやシニアカーは通れません。それに、階段を降りた先は大津通になっていて、横断できる交差点までちょっと距離があります。ここをよく通る人であれば、信号交差点を2回渡るのを我慢して南側歩道を利用するのでしょうけど、初見だと罠にはまりそう。

大津通を渡るには遠回りしないといけません

なので自転車道だけあって歩道がないというのはやっぱり罪悪感がありますよね。歩行者に申し訳ない。


こちらが歩道の東端。陸橋を渡ろうと思ってこの階段を自転車を押して登ってきた人がどうするかというと、まあ100%引き返したりはせずにこのまま歩道なり自転車道なりを走ると思うんですが、どうしたものでしょうね。階段の入り口に注意書きぐらいはあるのかな。


スロープを降りると…


自転車道が自転車専用通行帯に切り替わります。幅員が狭くなるわけでもないのでどうして切り替わるのか不思議に思いましたが、市によれば前述のように路上駐車需要に配慮したものだそうです。駐車需要があるにしても、駐車車両をよけるために第二車線に出て下り坂でスピードの乗った自動車の流れに混ざるなどという芸当は誰にでもできることではありません。まずは駐車台数を測定し、その結果がなんであれそれを理由にして自転車道に転換するのが正解でしょう(駐車が多い→自転車がよけるのが危険、駐車が少ない→柵を作っても誰も困らない)。

このあたり、せめて中央分離帯のある道路は上下車線それぞれ別のものとして扱ってくれれば南車線だけでも柵をつけられたのですが、まあ自転車関係の道交法はほかにも問題山積みなのでどうしたものかというところです。


最後に振り返れば標識4つ。この中でいちばん重要度が高そうなのって進入禁止標識(自転車道)じゃないかと思うんですが、他の標識に隠れてしまって見えにくいですね。

以上、熱田陸橋の一方通行自転車道を写真でご紹介してまいりました。

まとめ

平成23年(2011年)に警察庁が「やっぱり自転車が歩道を走るのはよくないんでなんとかして」と号令をかけてから11年。その間に名古屋市の市道に整備された自転車通行空間は

  • 鶴舞公園西側(歩道の一部を自転車道に転換)
  • 千種公園北側(片側一車線道路の路肩を広くして自転車専用通行帯に)
  • 瀬戸街道(同上、ちなみに市内の県道は市が管理しているそうです)
  • ノリタケの森北側の通り(同上)

と、もともといくぶんなりとも幅に余裕のあった道路が対象であり、車線数を減らしたり中央線を消したりはせずに、どうにか隙間に自転車用スペースを押し込んだといった体のものばかりでした。これらの自転車道、自転車レーンが市民にどのように受け止めらているのか、路線ごとのアンケート調査結果なども見たことがありませんので知る由もないのですが、少なくとも上に挙げたうちの自転車レーンについて「小学生の子供といっしょに安心して走れる」かと聞かれれば、あまり賛成する気にはなりません。しかしこの熱田陸橋はどうでしょう。


まっすぐ走るのが難しい児童でも、足腰の弱った高齢者でも、自転車に乗る誰もが安心して走れるといっていいでしょう。それは間違いなく、車道を一車線減らすことでじゅうぶんな走行空間と物理障壁のための幅員を確保できたためです。この自転車道のおかげで熱田区の自転車利用人口がいきなり増えた、ということにはさすがにならないでしょうが、このような高品質な走行空間ネットワークを今後も継続的に伸ばしていくことができれば、たくさんの人が自転車に乗るようになるのは間違いありませんし、その多くは自動車からの乗り換えであるはずです。そうなれば、クルマでしか移動できない市民、クルマでないと果たせない職務を抱えた人たちにとっても走りやすい道路が生まれます。名古屋市におかれましては、ぜひともこの路線にとどまることなく、この先も積極的な車道空間の再配分によって「誰もが使いたくなる」自転車インフラの整備を進めていってもらいたいと思います。


もちろん、ここまでに述べてきたように熱田陸橋も大いに改良の余地があります。もっとも望まれるのはなんといっても対面通行です。写真を撮りにいった日はこんなふうに逆走する人をちらほら見かけたものですが、このような破格の道路幅ですので、すれちがってもとくに危ないとは感じませんでした。なんでしたらいますぐ一方通行規制を撤廃したところで現在の交通量ではさしたる問題にはならないと思いますし、法令上必要とされる幅が足りないということであれば、ガードレールの土台をちょっとばかり車道側に押し出してくれればいい。車道側の路肩部分の幅、出来町通あたりと比べると明らかに余裕がありますからね。なんなら土台の幅を自転車道の幅にカウントしてくれてもいいのです(そういうインチキ工夫は他の自治体でよく見られます)。逆にこのまま一方通行規制を継続すると、道路利用者に「ルールなんてナンセンスなものだから守らなくてもよい」と思わせてしまいます。さしてきつくないカーブに「スピード落とせ」という看板を設置してしまうと、ほんとうに減速しなければ危険なカーブに設置した看板も無視されるようになってしまうというあれですね。

また2022年度に入って警察庁は自転車の取締の強化を全国の警察に呼びかけています。そして警察は取締を実施する場所として、踏切や信号交差点など、違反の事実がわかりやすい箇所を選びがちです。この熱田陸橋も、一方通行の入り口で待ち構えていれば逆走車を次々に検挙できるでしょう。もちろん第一義として、安全意識の醸成につながらないような取締を実施してしまう警察に問題があるわけですが、それを助長するようなインフラを作った行政も片棒を担いでいるとのそしりを免れるわけにはいきません。

一部区間にしかない北側歩道については難しいところです。名古屋市の自転車インフラがもっと充実して、ちょっと変わった形の、いわゆる普通自転車規格に収まらない自転車が実用的に使えるようになり、自分の足で歩くのが難しい人でもそうした「変わった」自転車であちこち行けるようになれば、かならずしも歩道は必要ではないかもしれませんが、残念ながら今はまだ自転車は「健康なひとたちのもの」です。一部を自歩道としてでも全線で歩道を確保したほうがよいのではないかと思えます。

あとは側道への分岐部分の安全対策、これは最優先で取り組むべき課題でしょう。もちろん設計段階でその危険性を排除するのが一番なのですが、建設会社も市の担当者も自転車通行空間を設計した経験はまだまだ乏しいわけですから、トライ&エラーは必然です。今後しばらくは、整備計画に「作ってからの改良」をあらかじめ盛り込んでおくぐらいの覚悟でいてもよいのではないかと思います。

整備計画によれば、今後はノリタケの森周辺の既設自転車走行空間の延長と、丸の内の官公庁街での自転車通行整備が予定されているそうです。丸の内は通過交通が存在せず道幅もアホみたいに広いのでただの実績稼ぎかラウンドアバウトの実験場かと思いますが、ノリタケの森東の通りは市バスも走る片側一車線路線で、イオンモール入退場の自家用車も多いでしょうから、現状の矢羽根、車道混在という形態では安全性に疑問が残ります。そもそも片側一車線道路にしか面していない区画にイオンモールなんて作らせるなよという話ですが、できてしまったものはしょうがないので、徒歩の人と自転車の人が肩身の狭い思いをすることのないようしっかり優先順位をつけた道路整備をお願いしたいですね。

おまけ記事で、熱田陸橋からもうちょっと話を広げてみました。お時間ありましたらこちらもどうぞ。

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