第1回愛知県自転車の安全で快適な利用の促進に関する検討会議を傍聴してきました

会議に先立って委員の数名にひとつ前のブログ記事を紹介しておいたのですが、完全に無視されてしまいました。キモい傍聴好きおじさんとしか思われていないのでしょうか。それとも読んだ上で価値がないと思われているのか。

さて、本会議も例によって構成メンバーが見事におじさんばかりです。自転車というのは成年男性とそれ以外で速度域がかなり違っていて、自転車のとらえ方、使い方にも差が出てくるので、政策決定にあたっては女性や(子供は会議に参加できないでしょうから)高齢者の意見を取り入れることが重要なのですが、それができている会議体はほんの一握りです。いちおう、自転車屋さん組合のえらい人が参加しておられるので、ママチャリ利用者の声を代弁すべくがんばっていただきたいところ。

まずは会議資料へのツッコミ。右のグラフ、自転車×歩行者および自転車×自転車の人身事故割合が増えていますよという主張らしいのですが、これ件数に直すと30,836件×0.42%=130件ですよね。2019年中の自転車の死傷者数は7,056人です。つまりほとんどの自転車事故は四輪車が相手です。そこにまったく触れないというのはここ数年の警察の方針ですのでいまさら驚きはしませんが、条例策定にかかわる会議もその方針を追認していることには失望を禁じえません。

さらにこちら。「二輪車及び自転車死者の割合は横ばいで推移している」とありますが、上には「歩行者死者の割合が平成21年以来3割を下回った」と書いてあるのですから、公平を期して「自転車死者の割合が平成28年に次いで低い16.0%となった」とすべきですよね。こういう細かい印象操作がいちいち癇に障ります。

あとはおなじみのこちらのグラフ、これもここ数年警察が統計に特に付記するグラフなのですが、自転車が死んだ事故では間違いなく自動車側の多くにも法令違反があります。が、そのデータはITARDAに年会費20万円を払わなければ手に入らないため一般市民には証明できません。


当然、自動車運転者に安全教育をしようなんて発想にはなりませんから、条例の施策にも含まれていません。片手落ちもいいところです。

そしてヘルメットの重要性を訴えるこのグラフ。ええっ!? 死者のうち97.7%がヘルメット非着用!? 怖い!

なんのことはない、もともと誰もかぶってないというだけです。


資料がこんな調子ですから会議もしゃんしゃんで進みます。いちおう発言をピックアップして見てみましょう。

嶋田氏(大同大学教授):事故時の走行位置なんかがわかるといいんですけどね、ブラックボックスですから

どうもITARDAの持っているデータは走行位置まではわからないようなんですが、愛知県警が事故原票に記録しているかもしれませんし、やっていないならやりましょうと声掛けしていく機会がまさに今なのではないでしょうか。

鈴木氏(名古屋工業大学准教授):ヘルメットをかぶっていない人がかぶってもよい理由を答えたアンケートですが、自転車の利用頻度によって傾向が違うかもしれない。ターゲットを絞るためにも、そのあたりまで集計してほしい。

よい視点です。まあそもそもアンケートの回答の「つもり」をどこまで信じていいのかという話もありますが…。

高野氏(愛知県自転車モーター商協同組合理事長):豊橋では平成26年から自転車活用推進計画を策定してやってきたのだが、この会議では自転車の危険性ばかり訴えている。推進したいのか抑制したいのかどちらなのだろう。自転車は歩道を走ると加害者、車道を走ると被害者になってしまうから専用の走行空間が大事だ。
県建設局道路維持課:空間確保のために用地買収となると大変ですので、今ある幅員の中で路肩や植樹帯などをうまく活用してやっていく。自転車道は条例では60km/h以上の場所と定められているので(以下略)

高野氏は今回の会議でいちばんママチャリ利用者に近い立場かと思われます。それだけに発言内容も素晴らしい。対する担当者の回答は、車道を減らすという発想も、60km/h以上という条件が妥当かどうかを考えるつもりもこれっぽっちもなく、県の自転車活用推進計画の先行きは明るくありません。

片山氏(OSCNじてんしゃスクール代表):東京の自転車通行空間の様子を見てきたが、逆走したり斜め横断する人がいて、やはりインフラだけでなく教育も必要だと感じた。

どこをご覧になったのかはわかりませんが、逆走は「そうしないと著しく不便だから」やっていることもあり、それは双方向通行の自転車道整備によって解消されます。良いインフラは良い行動を招くということも忘れないでいただきたいものです。

愛知県警察交通部:自転車利用業者と自転車貸付業者への安全教育の要望があがっているのできちんと入れていただきたい。シェア自転車の利用者は登録制なのでユーザーに向けてなにかしていきたい。高校生はヘルメットをかぶらないらしく、校長先生からは条例という後ろ盾があれば校則にしやすいと言われている。

自転車利用業者はUber Eatsでしょうねえ…。

木村氏(市民・自転車フォーラム理事長):年齢によって事故の時間帯がぜんぜん違うことは驚いた。
県教育委員会保健体育課:朝にとくに事故が多いのは通勤の自動車が多いことも一因。ヘルメットは、自転車通学を許可している中学校では義務化されているが、高校はなにか歴史的な経緯があるらしく義務化している学校はない。高校側としてはむしろ交通マナーのほうが課題だと考えていて、ヘルメットの話は聞こえてこない。

管理教育の代名詞みたいな愛知県の高校でヘルメットが義務化されていないとは意外でした。言われてみるとたしかにかぶってないわ…。

鈴木氏:ヘルメットの促進はいいが費用もかかるので実効性が問題。愛媛県では高校生にヘルメットを配ったところ着用率が8割ぐらいになったと聞いている。愛知県も費用負担するとよい。また条例で定める県の責務について、具体性がない。たとえば道路関係なら市町村や国との連携を密にする、県警なら事故がどこでどのように起きているかを調べて公知し、教育する立場の人たちにリアルな情報を提供してほしい。

ありがとうございます。

片山氏:5年前にベルギーとオランダに自転車の視察に行った。ベルギーでは自転車道はあまりなく、OLやおばあちゃんまでみんなヘルメットをかぶっている。

以下のページによれば、ベルギーの少なくとも南半分では、自転車利用者の3分の2はヘルメットをかぶらないそうです。
木村氏:コペンハーゲンではドレスを着た女の人がヘルメットをかぶっていたりする。

発言の意図がよくわからなかったのですが、せっかくなのでコペンハーゲンの動画を御覧ください。

県教育委員会保健体育課:学校教育はさまざまな普及啓発の場として利用されており、それが多忙化の一因になっている。交通安全教育を施策としてやるからには実効性が伴わなくてはならないが、学校はもう汲々。

そうですよね…。どちらかというと片山氏の主宰する自転車スクールみたいなところを増やしていくほうが現実味がありそうです。

さて最後に今回のMVPのご紹介です!

県教育委員会保健体育課:保険について、義務化の可否を問うアンケートの回答も半数が賛成であるし、他県での義務化も進んでいるため、愛知県で条例化したとしてもコンセンサスは得られると思う。しかしわざわざ示してもらった事故データでは、自転車が加害者となる事故は260件ぐらい、対して県民700万人のうち4割が自転車に乗るとして280万人。事故のうち、自分の資力では補償できないケースがはたして何件あるのか、それで県民全員に義務化するというのは…。

こういう人がいるから世の中はちょっとずつ良くなっていくんやで…。

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