通勤通学時間帯の瀬戸街道で自転車レーンの通行量調査


東区矢田から瀬戸市内まで延びる愛知県道61号名古屋瀬戸線、通称瀬戸街道には自転車レーンが整備されています。場所は矢田川橋を越えて守山区に入ったところから名鉄瀬戸線小幡駅の手前まで、区間としては2kmほどの長さなのですが、普通自転車専用通行帯の指定は断続的で、合計約1.4kmとなっています。瀬戸街道の自転車レーン整備が始まったのは2014年(平成26年)で、自転車レーンとしては2013年整備の弦月若水線(千種公園や愛工大名電の前の道路)に次いで古く、実は桜通の自転車レーン(2015年整備)よりも前だったりします。

瀬戸街道についてはこれまで何度か言及しましたが、基本的にはあまりよい印象を持っていませんでした。というのもこの道路はかなり交通量が多いのに、幅がアスファルト部分で1mあるかないかといったところなので、誰でも安心して走れるとはとうてい言いがたく、実際昼間に通ると自転車通行帯を走る自転車はほとんど見られないのです。さらには、自転車レーンを走行中の自転車が追突されて大怪我をする事故が起きています。ひとつは2015年。

8月30日午前8時55分ごろ、愛知県名古屋市守山区内の県道を走行していた自転車に対し、路外に逸脱した乗用車が衝突する事故が起きた。自転車に乗っていた女性が重体となったが、クルマは逃走。警察は後に61歳の男を逮捕している。

愛知県警・守山署によると、現場は名古屋市守山区町北付近で片側1車線の緩やかなカーブ。乗用車は右カーブを進行中に道路左側の路外へ逸脱。路肩の自転車走行帯を同方向に進行していた自転車へ後方から衝突した。

路側帯走行の自転車をひき逃げ、飲酒運転の男を逮捕 | レスポンス(Response.jp)

 もうひとつは2019年です。

13日午前4時半ごろ、名古屋市守山区城南町の県道で、自転車で新聞配達をしていたアルバイトの女性(57)が自転車専用レーンを走っていたところ、後ろから来た車にはねられました。

警察によると、女性は病院に運ばれ腰の骨を折る大けが。女性をはねた車はそのまま現場から逃走しました。

新聞配達の自転車女性、ひき逃げされ大けが 名古屋・守山区 : 中京テレビNEWS

瀬戸街道自転車レーンの危険性については、開通直後に市議からも指摘がなされていました。

◆松山とよかず市議:自転車利用の環境整備費ということなんですけれども、これ確認なんですが、車道にブルーのラインを引いて、自転車レーンをつくるという整備費のことでよろしいですか。

◎緑政土木局路政部主幹:委員御指摘のとおり、車道に青で塗装いたしまして、自転車レーンを整備するという事業でございます。

◆松山市議:これ今名古屋市内だけでは、このやり方というのは千種区と守山区だけになっていますか。

◎緑政土木局路政部主幹:平成24年度に千種区、今年度守山区ということで、2例ございます。

◆松山市議:それで、今、守山区のその自転車レーンを引いて、供用開始がこの前されたばかりのところなんですけれども、瀬戸街道が非常に道幅が狭くて、しかも大きいトラックも通る、幹線道路とまでは言わないんですけど、そういう幹線道路に近い道で、非常に大きなトラックが通って、自転車利用者の方がちょっと怖いなというような声をたくさんいただいたところなんですけれども、先に供用開始された千種区で、そういったことの声だとか、市民の皆さんの声だとか、対策だとか、何かこういったことというのは進められていることってありますか。

◎緑政土木局路政部主幹:平成24年度に実施しました千種区の弦月若水線という道路でございますけど、守山区の瀬戸街道に比べますと、車の交通量は非常に少ないという状況で、第1例を実施したところでございます。今まで広い歩道の中で、自転車と歩行者を分離するということでずっと事業を進めておりましたけど、平成23年度に警察庁のほうから通達が出たということもございまして、自転車を車道へ誘導していきたいと。特に狭い歩道で舗装しているようなところはしていきたいということで1例目をやってございます。

実施に当たりましては、事前の説明を学区の連絡協議会等で何度か説明させていただいております。その中でやっぱり怖い、危ないという意見がたくさん寄せられてはおります。ただ、昭和45年に道路交通法が改正されてから、事故防止のためにということで、歩道に誘導されておった関係もありまして、一朝一夕に車道へというのはやはりなかなか難しいというのが現実的なのかなと思います。

ただ、現実として車道を走っていられる方もかなりみえるということで、その車道を走っている自転車の安全対策と歩道を歩いてみえる歩行者の安全対策ということで、色をつけて明確にしておるという状況でございます。

平成26年土木交通委員会  03月10日-01号

「現実として車道を走っている自転車の安全対策」このフレーズどこかで聞いたことがありませんか? そう、国土交通省が「車道混在」の整備形態について説明するときに使う文句です。「完成度の低い自転車専用通行帯は車道混在と見分けがつかない」といったところでしょうか。

◆松山市議:この利用環境を整理することによって安全性を確保していくというようなことの趣旨というのは非常に理解をするところなんですけれども、今特に瀬戸街道というと、非常に道幅が狭くて交通量が多いと。しかも大きい車が通るというような状況の中で、少し危険を感じるような状況もあるんですね。一方、そういったことの声もちょっと集約をしながら取り組みをしていかなければならないなという感じがしているんですけれども、供用開始後の意見聴取だとか、アンケートだとか、こういったことって計画されていますか。

◎石塚緑政土木局路政部主幹 平成24年度に実施しました弦月若水線では、今年度アンケート調査を実施しております。瀬戸街道におきましては、今のところ特段アンケートというところまでは考えておりませんけど、地元の方の意見をお聞きしながら、次へつながるような形で整備していきたいと考えております。

平成26年土木交通委員会  03月10日-01号
 けっきょく瀬戸街道では特に整備形態は変更されず、上でご紹介した深刻な事故が起こってしまいました。市議会からもう1件、最初の事故があった平成27年、事故後ひと月ちょっとの土木交通委員会の議事録を抜粋します。

◆北野よしはる市議:県道名古屋瀬戸線の自転車利用環境整備の概要について、整備の経緯と状況を確認のためにちょっと教えていただけますか。

◎緑政土木局路政部主幹:県道名古屋瀬戸線、いわゆる瀬戸街道は、この沿線沿いに名鉄の駅、学校、商業施設などが点在し、朝夕のラッシュ時を中心に、歩道上に通勤、通学の歩行者と自転車が集中、混在し、接触事故が起きかねない状況でした。また、警察庁から、自転車は車道走行が原則との通達が出されたことから、自転車の走行空間を確保する目的で、車道の路肩をカラー化した自転車専用通行帯、通称、自転車レーンを平成25年度から瀬戸街道において整備を行っております。これにより、歩行者、自転車の通行区分を分離して、歩行者と自転車の接触事故を抑制するとともに、路肩をカラー化することで車道走行する自転車に対し、車のドライバーに注意喚起を促して交通安全性を向上させるものです。整備費につきましては、記載のとおり1460万余円、場所につきましては、矢田川橋東詰から守山交差点の約0.6キロでございます。

◆北野市議:私も、この自転車レーンの道路を頻繁に車で通るわけなんですけれども、実際、お年寄りなんかが自転車で走られるとき、ふらふらとされることもあるので、横を通るときは冷や冷やしながら通っておるわけでありますけれども、このレーンの整備の具体的な効果ですね、事故が減ったとか、そういったデータとかというのは今把握されていますでしょうか。

◎緑政土木局路政部主幹:整備効果といたしまして、整備後、多くの自転車が歩道走行から車道走行へと転換いたしました。整備の前と後とで自転車の交通量調査を朝の8時から9時に行いましたところ、整備前につきましては、車道走行する自転車が約30%でございました。それに対しまして、整備後は車道走行する自転車が60%と2倍に増加しております。

また、自転車レーン整備における交通死傷事故につきましては、自転車レーンの整備区間において、整備前につきましては、交通死傷事故の件数が年間で13件であったのに対しまして、整備後につきましては、事故数は5件と、約40%まで低下しております。

平成27年土木交通委員会  10月05日-01号

件数が減ったのはたいへんけっこうですが、その内訳はいったいどうなっているのでしょう。車道で自動車に追突される事故なんて、整備前には起こっていなかったはずですが。

その原因といたしましては、自転車レーンの整備によって車道走行をする自転車がふえましたため、車のドライバーがより注意を払い、慎重な運転をするようになったことや車道の路肩カラー化により道路車幅が狭く見えるという視覚的効果によって、ドライバーが安全に運転するようになったということが考えられます。

平成27年土木交通委員会  10月05日-01号

そこは推測にとどまらないよう、整備前後での自動車の実勢速度ぐらいは測定しておくべきでしたね。そして仮にドライバーの運転の安全性が平均的には高まったとしても、自動車のすぐ隣をなんの仕切りもなしに自転車に走らせれば、ひとたび飲酒や脇見などが発生してしまうと重大事故につながるわけですが、それは「不幸なできごと」で済ませようということなのでしょうか。

このあとも瀬戸街道はなんどか市議会で取り上げられているのですが、内容はいつも判を押したように同じ。

◆松井よしのり市議:土曜日の朝刊に載っていたのが自転車専用道路、西区のほうでできたという形で、写真にも大きく載っておりました。守山にも瀬戸街道沿いにもうできて、ほぼほぼたちまして、私もよく通ります。非常に自転車の走行も私が見ている範囲、もう3年、4年たちますけども、かなり自転車のほうが使っているように思っておりますが、まず端的に聞こう。この自転車専用の効果について教えてください。効果、長所というのかな。お願いします。

◎緑政土木局路政部主幹:自転車レーン整備における効果でございますけれども、整備前と整備後で自転車が車道を走る交通量がふえております。路線が多いものですから、平均的に見ますと、整備前がおおむね30%程度の車道走行だったのが、整備後におおむね60%まで上がっているという効果が出ております。

◆松井市議:長所というか、効果という部分はそうなんだけども、逆に言うと、先般こういうことについての地域の方とのそういう懇談会があったというふうに聞いておりますし、私ものぞかせに行きましたけども、そのときに出た効果という、長所という部分はわかりましたけども、これができたことによる、逆に言うとデメリットというのか、こんなことで困っているんだとかいうような話はなかったのかな。

◎緑政土木局路政部主幹:この地域の方との懇談会といいますか、それを1月14日にチャリばた会議という名をつけて行いました。参加された方々は地元学区の方々及び交通安全指導をされている方と市民・自転車フォーラムというNPO法人の方々と行政とで行いました。その中で、短所といいますか、例えば年配の方は車道を走ると、横をトラックが通ると風圧でバランスを崩すようなことがあると、そういったことですとか、やはりどうしても車が通り過ぎるときに、ちょっと不安を感じるという御意見がございました。

◆松井委員 というようなことも私も現実、現場で見たときにそういった危ないなというような、特に交差点の際なんていうのは、左折するような車もあったりするものだから危ないなというような感じもします。

平成29年土木交通委員会  03月13日-01号

危ないですねえそうですねえと言いながら具体的な対策を進めないまま放置した結果が2019年の追突事故でした。名古屋市はこうした追突事故を不可避なもの、起こるべくして起きたものだとでも考えているのでしょうか。

本題。

前置きが長くなってしまいました。今回はタイトル通りこの瀬戸街道の自転車レーンで通行量調査をしてきましたのでご報告です。2022年6月の晴れた平日、時間は通勤通学の自転車が多いであろう7:30~8:30、場所はピアゴパワー守山店前です。10年前に買った安物のフルHDビデオカメラで撮影したのですが、画質がさほど良くないので、男女の判別に100%確信が持てないケースが2~3例…。


ここから通り一本裏手に入ったところには名鉄瀬戸線瓢箪山駅の駐輪場がありまして、そこへむかう自転車が集中しやすい…というのは動画を見てから気づきました。


さて、まずは車両を含めた通行量全体を見てみましょう。

意外だったのが、車両については名古屋市内から市外へと向かう東行の交通量が西行の倍近くあったこと。市の外縁部、郊外は、事業所の数こそ少なくとも、駐車場の保有率が高く自動車通勤しやすいということなのでしょうか。
東西合わせると自転車の台数は17%で、まあまあな分担率といってよいかと思います。
R22の自転車道では半数強が女性でしたが、瀬戸街道では3分の1ほど。言うても学生さんとか若くて元気な世代だったら女性でもけっこう自転車レーン走ってるんでしょ、ということで学生服やジャージっぽいものを着ている人を別カウントしてみたところ、
なんと成人よりも児童生徒のほうが女性比率が低いという結果に。ワイシャツとスラックスの成人男性を高校生と間違えた可能性もないではないのですが…いちおうカバンなんかもそれっぽいかどうかの判断材料にしたのでそんな大きく間違ってはいないはず。成人のほうが自動車に対する信頼感が高いということなのか、それともたんに女子生徒の自転車通学率が低いのか、どんな理由なんでしょう。
高齢者の割合というのも気になるところではあるのですが、さすがに見た目だけでは年齢を判別できません。自転車利用者の細かい属性と関連づけたかったらアンケート調査するしかありませんね。
瀬戸街道はもともと歩道が狭くて歩行者と自転車が混ざると危ないということで自転車レーンが整備されたわけですから、市議会でも報告されていた通り、狭い歩道をわざわざ自転車で走ろうという人は少数派でした。歩道を走っている方の中には、脇道から出てきてすぐに道路沿いのお店に入ろうとしたり、横断歩道で反対車線に渡ろうとしている方も数名いらっしゃいましたので、車道利用率の実態としてはグラフの数字よりも微妙に高いのではないかと思います。
またこの路線の特長として、路上駐車するクルマが皆無だという点は見逃せません。朝の通勤通学時間帯ということでそもそも路駐需要が発生しづらいですし、東西いずれもまあまあな頻度でクルマが行き交っていますので、ちょっとでも駐車しようものならすぐに流れが詰まってしまうでしょう。加えて交通量の多さから実勢速度もそれほど高くはなく、目測・体感ですと40km/hを超えるクルマはほとんど見ませんでした。そうした好条件が重なったことで、少なくともこの路線を走れると判断した人たちについては、車道が十分に安全だと思えるのでしょう。それはもうみなさん道路利用者としてご自分で判断なさったわけですから、私にできるのは、その判断が裏切られることがないよう心の底から祈ることだけです。


最後に、せっかくなので車種・年齢層・性別ごとの利用者数。
世界的に見ると日本というのは女性の自転車利用率がかなり高いレベルにあるのですが、こうして車種の違い、自転車の使い道の違いがはっきり出るということは、ふだんの生活において男女が担う役割というものについてはまだまだ差があるのでしょうね。
ヘルメット着用率についてもグラフを載せておきます。

4月からの着用努力義務化がどのように受け止められるか注視していきましょう。

余談

動画撮影中、私の横を通り過ぎる歩行者のみなさんはいいかんじで私を無視してくれるのですが、自転車レーンを走っている方々はだいたいこちらをじろじろ見てくるのですよね。ある程度距離が離れているので物理的に危害を加えられることはないという安心感からでしょうか。この違いはなかなかおもしろかったです。

おまけ

瀬戸街道の自転車レーンをブログ記事で取り上げてくださった方は以前にもいらっしゃいましたのでご紹介。

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