4年越しの議論と社会実験を経て国道19号(伏見通)大須観音前に自転車レーンが開通


名古屋市立大須小学校の校区を南北に貫く国道19号/22号。このあたりでは伏見通と呼ばれています。その幅員は約50m、車道は片側3車線、交差点では右左折レーンを加えて5車線になります。なにせそんな幹線道路ですので、400mにわたって切れ目のない中央分離帯が設置されており、横断に際しては2箇所ある横断歩道橋を利用しなければいけません(ちなみに自転車やベビーカーを押して上がれるようなスロープはとくにありません)。ですが、歩道の幅は広大な車道と比べるとまったく普通であり、小学生の登校時間になると、歩道橋を降りてきた児童たちと、階段で狭くなった歩道を走る自転車とがぶつかりそうで怖い、といった声がずいぶんと前からあったそうです。

それを受けて平成30年、道路管理者である国交省と名古屋市、警察、地域の代表からなる協議会「大須地区安全な自転車利用に関する連絡会」が設置されました。

そこから4年あまり、全7回におよぶ話し合いと自転車通行空間設置の社会実験を経て、どうやらこれが最終形態であろうというところまで整備が進んでいましたので、令和4年12月の平日午前中に現地を見てきました。

それでは通りの東側からご紹介。

まずは区間北側、白川公園横の自転車道からの接続部。奥に見える自転車道から手前に伸びる自転車横断帯を経て…

歩道上へ。ここまでは対面通行(左側通行)ですが、

この先の車道では自転車レーン、つまり一方通行ですので、自転車の経路がこのように交差して出ていくことになります。自転車同士がすれ違う場所を、他のトラフィックに気を取られてしまう交差点内ではなく、歩道の途中にしたのは悪くない判断かと思います。

車道に出そびれた人に向けたとおぼしき案内看板。雑草で隠れてしまっていますね。さっきの出口の手前にも設置したほうがいいかも?

青い矢羽根に沿って自転車レーンへ。

設置されたばかりの「歩行者」「自転車」看板。さっそく無視して歩道を走る自転車の方がいらっしゃいますが、車道の先の方を見るとその理由が…。

ところで、この手の看板を置きたくなる気持ちはよくわかるんですが、若干の懸念がないでもないです。それはなにかと言いますと、「法定標識が目立たなくなる」プラス「他の歩道上の看板と同一視されてしまう」という点でして、つまりこの区間は自転車歩道通行可ではないのですが、法定標識よりも目立つような、しかもあちこちの歩道でよく見る看板が立っているので、自転車通行可の歩道にある看板を無視して走るのと同じ感覚でこの区間の歩道を走ってしまうんですよね。そして昨今では後者は前者に比べると警察の取締りの対象となる可能性がかなり高いはずです(絶対的にはどうだか知りませんが)。

ここは自転車専用通行帯の標識を大きくするなどして、名古屋市内の広い自転車通行可の歩道とは「なにか雰囲気が違うぞ?」と感じさせる工夫があってもよかったように思えます。

自転車レーンは、前方にある荷捌き用の駐車枠を避けて、車道側に向かって曲がります。この先に脇道が見えますが、一方通行の出口なので左折は不可。巻き込みの心配はなさそうです。

でもってこの駐車枠、写真のように小型トラックの幅ギリギリです。車道を走り慣れていない自転車利用者は馬鹿正直に自転車レーンの真ん中を走っていてトラックの運転手が開けたドアにぶつかりそうですし、それを予測してレーンの右端を走るのもそれはそれでなかなかに勇気がいります。

さらに進むと、すぐ左手に大須の大人気スポットらしい大須観音が現れます。しかしながら大須観音も大須商店街も観光バスの駐車場を自前で用意しておらず、親切なことで知られる国土交通省はここ国道19号に観光バス用の駐車枠を設置してくれています。そのため、荷捌き枠を避けて右側にオフセットされたままの自転車レーンの左側、歩道との間にある空間は青く塗られていないため、たとえ観光バスがいなくても、このように本来は駐車を許可されていないはずの車両が駐車してもOKな雰囲気を醸し出してしまっています。まあ乗用車であれば(そしてしっかり左に寄せてくれていれば)いきなり開いたドアにぶつからない位置を走ってもさほどレーンの右側に寄る必要はありません。

今回の訪問では、道路の東側ではほとんどの自転車が歩道を走っているように感じましたが、たまたまということはなさそうです。

(出典:大須地区安全な自転車利用に関する連絡会 第7回会議資料

実は名古屋国道事務所では、自転車がどこを何台を走っているか、社会実験の前から3回にわたって計測しているのですが、東側を通る自転車の車道利用率は13時間で最大10%。歩道に人があふれるであろう通勤通学時間帯、さらには南行の自転車に限定してもせいぜい35%にとどまっています。

そもそも道路幅が50mもあるのに横断するための信号は400m間隔、おまけにその信号が青になるまではずいぶんと待たされるとあっては、自転車レーンを通るためにわざわざ反対側に渡ろうという人がほとんどいないのは当然。北行と南行の自転車の比率は東西でそれぞれ52対48、61対39となっていますから、歩道しか走れない(=自転車レーンだと逆走になってしまう)この52%と39%の人たちに歩道から出てもらうためには、国道の横断を容易にする、対面通行の自転車道を整備するなどといったさらなる対策が必要です。幸いここまでの4年間の整備は「短期計画」という位置づけですので、この先の中長期計画――短期が4年だとすると中長期に何年かかるのか存じませんが――で対策がなされることを祈りましょう。ちなみにほぼ同じ問題を抱えている桜通の自転車レーンですが、こちらが長年放置されていることを考えると、お祈りの効果は期待できそうにありません。

いまのところ完成しているのはこの西大須交差点以北ですが、ここより南側も工事が始まっていました。

ところでここ数年、全国的に自転車横断帯の撤去が進められていますが、この西大須交差点でも以前はあった横断帯がなくなっています。

この自転車横断帯、自転車通行可の歩道と並んで日本の混沌とした自転車行政の象徴みたいなものでして、あったらあったで問題なのですが、そもそも必要性があって設置していたものなので、なくなってもやっぱり問題が起きます。歩道を走ってきた自転車が横断歩道を渡るにしても、車道を走ってきた自転車が青い矢羽根にしたがって直進するにしても、左折車両に対して優先権がなくなってしまうのです。

道路交通法というのは、優先権を明確にして交通を整理することが主な目的のひとつなわけですが、左折する自動車とその左側を直進する自転車のどちらが優先かは明確に定められていません。自動車車線に矢印がなければ、自動車は左折時に自転車レーンに入って道路左端に寄せる必要がありますので、いちおう自転車と横に並ぶことはないという建前が成り立ちます。ところか左折矢印があると、たとえそれが第二車線であっても自動車はそこから左折を開始しなくてはいけません。そうなると自動車の左に並んで直進する自転車と、左折しようとして自転車専用通行帯をまたぐ自動車の進路が交錯するわけです。こうした状況に関して優先順位を定めずに「事故を起こさないようにうまいことやれ」ですませていいわけがありません。もちろん国交省が、ましては名古屋国道事務所がどうこうできる問題ではないのですが、少なくともこういった問題があることだけは知っておいてほしいものです。

それでは折り返して道路西側を北に向かって走りましょう。社会実験期間中は西側にもラバーポールが立っていましたが、とくに効果が認められなかったのか撤去されたようです。

この駐車枠は貨物用なのですが、左手にあるコンビニを利用するであろうお客さんは気にもとめずに乗用車を駐車していますね。せめてもうちょっと左に寄せよう?

バス停でも自転車は停車したバスの右側を走ります。まあバスは運転席側にドアがないので安心ともいえます。中央分離帯があるのでバスの影から横断しようとする人もいませんし。

バス停を島にする手法もありますが、ここには1時間に1本しか来ませんのでそこまでしなくても大丈夫かと。

前出の資料によれば、西側の車道利用率は13時間で28%ということで、東側に比べればましな数字になっています。北行と南行それぞれの東西の自転車通行量は北行:東5対西5、南行:東6対西4となっていて、通行量じたいの東西差はほとんどありません。そのことを考えると、西側レーンにはわざわざ利用するほどの魅力はないものの、通り道にあるなら使ってみようかな、と思うひとがそれなりにいるということでしょう。

こちらのトラックは、駐車枠ではないところに駐車しているのですが、自転車レーンをふさぐようなことはしていません。荷降ろしのときに自転車レーンを横断しないといけないドライバーの人は大変かもしれませんが、自転車にしてみるとトラックの右側よりも左側のほうがずっと走りやすく感じます。トラックだったら助手席からいきなり人が降りてくることもまずないでしょうし。

終端部は、社会実験中は交差点手前で歩道に上げるようになっていたのが、そのまま車道を走って交差点に進入するように変更されました。これをやると、南端の西大須交差点と同様に直進自転車と左折自動車との優先関係が未定義という問題が発生します。

それから、自転車レーンの停止線の前出しがほんのお気持ち程度なので、こんなふうに大型車でかんたんに視界を塞がれてしまうのですが、こうなると自転車レーンからそのまま目の前で交差する横断歩道を渡るときに見通しが悪くて危ないのですよね。もちろん正面の信号が赤のときに停止線を越えるのは違反なので、いったん歩道に上がってから横断歩道を渡るのが正しいですし、そうすれば見通しもよくなるのですが、そこに思い当たるような人はどんなインフラであってもちゃんと安全確認ができるのでほっといていいのです。とりあえず信号を無視して車に突っ込んだりはしないけどさ、程度の意識の人であっても安全に利用できる道路こそがよい道路です。

終端部の処理は東側と同じようになっていますね。

ということで大須観音前に整備された自転車レーンを見てきました。まあ、よくある自転車レーンといいますか、以前から駐車車両で塞がれていた第一車線に色を塗っただけで、それでもまあ「おっ、なんや自転車レーンできとるやんけ」「歩道は混んどるしこっち走っとくか」ぐらいの感覚で使ってくれる人が何%かいるという、ホンマにそれでええのん? と言いたくなる道路でしたね。

もちろん名古屋国道事務所にも同情すべき点は多々あります。そもそも歩道が狭くなっているのは地下鉄利用者のための駐輪場が道路外に整備されていないからですし、自転車道整備の障害となる観光バスの駐車枠にしても本来であれば大須観音なり大須商店街なりが用地を確保して駐車場をつくるべきでしょう(とはいえ観光バスの乗客が乗り降りするのと配送トラックの荷捌きと何が違うのかと言われると難しく、ある程度は道路に求められる役割ともいえるかもしれません。ある程度は)。しかしそれでもなお、既存の整備済み区間(桜通および伏見駅周辺の伏見通)において自転車道の成功と自転車専用通行帯の失敗が明らかであるのにもかかわらず、社会実験と称して小手先の変更を繰り返し、結局なにがよかったのか悪かったのかも明らかにしないまま、通行する自転車の2割にしか使われない整備形態を選択するという無謀な行いについては、なにをどうやったところで擁護することはできません。

先日、名古屋国道事務所から発表されたお知らせによれば、西大須から南にむかって金山まで、同様の整備形態が予定されているそうで、現地ではすでに工事が始まっています。当該区間は広い歩道幅が維持されており、しかも大須とは違って歩行者も少ないため、自転車専用通行帯など作られたところでわざわざ出ていって60km/hで走る車に身を晒そうとするような酔狂な人間がそうそう現れるとは思えません。ひょっとしたら、いかに少ない工事費で自転車通行空間整備済み区間総延長を延ばせるかということしか考えていないのかもしれませんが、もしそうだとしてもそれは私たち市民がそれを無言で肯定してきたからにほかなりません。国道だろうがなんだろうが、私たちの町を通るのならそれは私たちの道であり、その良し悪しを決めるのはひとりひとりの声なのです。この記事を読んでくださったみなさんの声が、いつか大きな力となることを祈って。

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