名古屋市自転車活用推進計画・ひと足お先にコメント

令和2年1月29日に開催された第3回名古屋市自転車活用推進計画有識者懇談会にて計画素案が配布されたのは既報の通りですが、当初9月ごろとされていたパブリックコメントは11月の実施となったようです。本稿では、素案の改善に役立てていただくため、パブコメに先立って計画素案への意見を述べたいと思います。

p. 6 図「交通手段別の移動距離と所要時間の関係」

「4km以内」「4km程度」と書かれていますが、グラフをよく見ると軸の数字と直線とが微妙にずれているんですよね。自動車と自転車の線が交わるのは距離=5.25km、時間=25分の点です(計算式にあてはめてみてください)。なので「5kmちょっと」などと表現するとよいかと思います。
なおこの図の出典は、旧建設省が平成10年(1998年)度に設置した「自転車道網整備に関する調査委員会」による「自転車利用促進のための環境整備に関する調査報告書」というものらしいです。作った人は20年以上も全国津々浦々で使われ続けるとは想像していなかったかもしれませんね。

p. 6 表「交通手段別の特性」

言いたいことはわかるのですが、少しばかりおおざっぱすぎるように思えます。たとえば以下のような指摘ができます。
  • 自転車と自動車は「目的地への移動:直接移動できる」とあるが、目的地によっては駐輪・駐車スペースを探す必要があり、その手間は徒歩とは同一視できない
  • 自転車=15km/h、自動車=17.5km/h、鉄道=32km/hという数字からすると、むしろ自転車と自動車の速度が「中程度」で鉄道が「速度大」とすべき
  • 自動車やバスの移動速度が交通渋滞の影響を受けることは明記すべき
また、自転車が大きな荷物の運搬に不向きなのは、走行空間が狭く、荷運び用の自転車(=カーゴバイク)の走行空間が道交法で考慮されていないからであって、幅広の自転車レーンなり自転車道なりが整備されカーゴバイクの通行が可能となれば、やがては自転車屋さんの店頭にカーゴバイクが並ぶようになるでしょうし、私たちが乗用車で運んでいるぐらいの荷物なら自転車で運ぶのも珍しい光景ではなくなります。こうした自転車のポテンシャルについて計画の各所で示していくことも大事ではないでしょうか。

p. 7 表「自転車の速度と重量の関係」

  • 統計をお出しできなくて申し訳ないのですが、幼児同乗用自転車はほとんどが電動アシスト自転車で、アシストなしというのはきわめて少数ではないかと思います。ですのでかわりに「幼児同乗用電動アシスト自転車」というカテゴリを設けたほうがよいのではないでしょうか。
  • 電動アシスト車で15kgというのはちょっと見たことがありません。スポーツタイプのものでも20kg台前半~です。
  • スポーツ車を「重量12kg未満」と定義するのであれば価格相場は「5万円~」程度が適切です。下の画像は大手チェーン店で販売されている重量11.4kgの自転車です。


p. 9 環境にやさしい自転車

自動車の騒音についての記述がほしいところです。たとえば名古屋市の令和元年度自動車騒音調査結果を参照し、「市内31箇所の測定地点のうち、道路に面する全戸が昼夜ともに環境基準を満たしているのは6箇所だけでした」というふうに現状を説明するのはいかがでしょうか。

p. 9 気象条件、地形に左右されやすい自転車

自動車や道路を走る公共交通(バス)は雨や雪によって事故を起こしやすくなったり(それを避けるために)走行速度が低下したりします(参考:イタルダ・インフォメーションNo. 34)。また下り坂で速度超過気味になったり段差が煩わしいのは自動車も同じです(峠の下り坂で路面に凸凹の施工がされているのはそのためです)。どの程度「左右されやすい」かについて客観的な指標もなく、自転車だけが影響を受けやすいような記述をする必要性を感じません。これは「自転車活用推進計画」なのですから、むしろ自転車利用の障害について、市民を思い込みから解き放つ、あるいはその原因がインフラであれば解決可能であると示すことが必要です。

p. 9 転倒の可能性がある自転車

ことさら転倒について取り上げる必要性を感じません。平成27年交通事故統計によれば自転車事故における転倒の割合はわずか1.3%です。転倒を含む単独事故に限ってもその割合は1.9%ですし、この値は車両(原付以上)の単独事故の割合2.8%と比べても低い値です。転倒の可能性があって危ないといえるのなら、同じように「クルマと比べると単独事故の占める割合は小さいです」ともいえるはずです(そしてどちらもわざわざ主張するのはナンセンスです)。

p. 10 ライフステージごとに活用の仕方や通行ルールが変化する自転車


表の「自転車の役割」という欄ですが、ここが「電車利用」「バス利用」となっていてもとくに違和感はありませんし、大学生以上であれば「自家用車の利用」でもいいわけです。移動手段全般に適用できる話をわざわざ「自転車の役割」として掲示するのはなんのためでしょうか。

p. 11 自転車利用の長所と短所


6ページの表「交通手段別の特性」をもっと詳しくしたものです。いろいろと問題があるので順に指摘します。
  • 「人にとって」「まちにとって」という分類をしたくなる気持ちはわかるのですが、分類をしただけでは意味がありません。「まちにとって」は個々人にとってはいわば「どうでもいい」ことであり、「みんなもっと社会のことを考えて!」とアピールしても効果は期待できません。それよりも、「人=個人」にとって自転車が最適な移動手段として選ばれるためにはどうすればいいかに注力すべきです。
  • 「自動車と自転車を賢く使い分けることで」という言い回しにしても、「自分のことだけを考えるのではなく社会の利益のために行動する」ことを勧めるニュアンスを込めたつもりでしょうが、そのように行動させるのが簡単でないから政府が存在するわけです。
  • 長所と短所が挙げられていますが、短所の多くは自転車というものが本来備えている性質ではなく、日本の不出来なインフラに起因しています。その点を明らかにするとともに、自転車の持つポテンシャルを最大限に活かすためにはどうすればよいかを示すことが計画に求められるのではないでしょうか。
  • 気象条件や地形、大きな荷物を運べないといった問題についてはすでに指摘しましたが、放置自転車も、自転車の活用を推進するという観点からすれば不十分な駐車スペースこそが真の原因といえます。
  • この欄では、そうした問題(日本では自転車の「短所」とされる部分)を解決した諸外国の対応について「コラム」として紹介するのはいかがでしょうか。
    • 例:フィンランドのオウル市の取り組み。1年の半分は積雪があるにもかかわらず自転車の利用率は22%と驚異的。Rotuaariと呼ばれる歩行者自転車専用ゾーンの整備、自転車道の優先的な除雪、広大な自転車道ネットワークがそれを可能にしています。
    • 例:イギリスで電動アシストカーゴバイクによる旅客と荷物の運送を事業とするPedal Meによるツイート。
    • 例:巨大なオーブンをカーゴバイクで持ち帰る女性
    • 例:バンクーバーのフラットな自転車道。交差点はProtected Intersectionと呼ばれる安全性の高い構造に。
    • 例:ユトレヒトの巨大な地下駐輪場。自転車に乗ったまま出入り可能。
  • 最後に、自転車の長所として「走行中のエネルギーが自動車と比べるときわめて小さいので万が一事故を起こしたときに重傷や死亡事故となる確率が低い」を追記してください。

p. 14 めざす姿と自転車を活用することによる効果

ここに挙げられている効果は、自転車固有のものではなく、公共交通の充実によって得られるものも含まれます。ということは、あたりまえですが、公共交通から自転車への転換については効果が薄いということです。世界を見渡すと、新型コロナウイルスの感染リスクを避けるために公共交通から自転車へという流れが大きいのも事実ですが、公共交通があからさまに感染リスクが高いというエビデンスはいまのところなく、適切な対策をとっていればリスクを十分に低く抑えられるというのが現実的な見方です。
であれば焦点をもう少し「自動車からの乗り換え」に向けて、それによる幅広いメリットをアピールする必要があるのではないでしょうか。低炭素、健康増進、都市魅力向上はもちろんのこと、ほかにも
  • 重大な交通事故の低減
  • 渋滞解消による消費拡大
  • 大気汚染と騒音の低減による住環境改善、それに伴う地価上昇
  • クルマを利用できない人々の暮らしの向上
といった効果が期待できます。

p. 18 自転車の使われ方


「半数の人が15分未満の利用にとどまっており」との記述がありますが、この事実についてネガティブな表現にする必要はとくにないように思えます。それよりも「1年に数日ないし利用しない」と回答した層が「43%にものぼる」ことのほうが問題です。
それから「自転車利用時間」は一日あたりではなく一回(片道)あたりであることを明記しておいてください(アンケート設問は「自転車に乗っている時間は1回当たりどのくらいですか」でした)。

p. 19 自転車に関連する交通事故の状況


自転車関連事故の割合が全国に比べて高いとの記述がありますが、もしも自転車の交通分担率が高ければ自転車事故の割合が大きくなるのは当然です。全国とではなく、前のページで分担率のわかっている東京都市圏あるいは近畿圏における自転車事故の割合と比較すべきです。県別事故統計から計算してみてください。年齢階層別の事故数についても同様で、利用者数と比べてどうなのかという話でなければ意味がありません。
また「自転車乗車中に死傷した者のうち、約7割に法令違反が認められます」という警察発表をそのまま掲載しておられますが、これは自転車事故のほとんどは対車両であること、車両の運転手はその質量・速度・免許制度からいっても自転車とは比べられないほど大きな責任を負うべきであること、車両側の大半にも法令違反が認められることに言及することなく、自転車に一方的に非があるかのような思い込みを呼ぶ偏った発表です。
ちなみに以下は令和元年中の全国の自転車事故の衝突相手別件数です(出典:ITARDA 表01-00AG101)。

自転車が...

四輪車

二輪車

自転車

歩行者

その他

単独

合計

第一当事者

11,628 

1,599

3,799 

2,697 

189 

3,747 

23,659

第二当事者

115,796 

7,899 

3,799 

73

4,256 

-

131,823


「四輪車(一当)×自転車(二当)」「二輪車(一当)×自転車(二当)」つまり車両のほうが自転車と同じかそれ以上の過失を犯したケースで全事故の8割を占めています。

p. 20 自転車事故の発生箇所


まずグラフ「当事者種別事故件数の箇所別割合」ですが、棒グラフの長さを事故件数に比例するようにして、自転車が第1当事者の事故と第2当事者の事故のどちらが多いのかひと目でわかるようにしてください。右図の「当事者別メッシュ(ワースト1%)」では2当メッシュの数が約2倍となっていますので、件数も同様の傾向を示すものと思いますが…。
それから車道を幅によって大中小に分類していますが、これは車線数で表現したほうがわかりやすいように思えます。対応の可否についてご検討ください。
また図「自転車関連事故の多発地点」ですが、ひょっとしたら重傷・死亡事故に限定した場合に異なる傾向が見えてくるということはないでしょうか。鈴木先生が生データをお持ちでしょうから、一度問い合わせてみてください。よろしくお願いします。

p. 20 自転車に関する犯罪の状況


次章の「施策と事業」では自転車盗の対策としてツーロックを推進するとのことですが、であればこのグラフについても (1) 施錠していなかったもの (2) 鍵をひとつだけかけていたもの (3) 鍵をふたつ以上かけていたものの割合を併記するなどしてはいかがでしょう。

p. 22 本市の地形・道路環境


都市計画道路の整備率が高いそうですが、ちょっと自転車とどのような関係があるのか読み取れませんでした。都市計画道路はいつどのように計画されたものなのか、整備率が比較的高い理由はなにか、整備率が高いということは自転車にどのような影響を及ぼすのか、などの説明があればよいのですが。

p. 27 自転車通行空間の整備状況

整備状況を示す図ですが、路線が同系色ばかりで区別しにくいのでもっとコントラストをつけてください。本計画に掲載されている各種棒グラフの配色と同じで大丈夫です。ただし、市道と国道との区別は市民にとってはほとんど意味がありませんので、市道と国道とは線種(実線・点線など)を変えるだけにして、色の違いで整備形態(自転車レーン・自転車道・自歩道)の違いを表すようにするとよいかと思います。

p. 28 サイクリングコースや自転車競技施設の整備

香流川沿いに「香流川サイクリングロード」なるものがあり、春には桜が楽しめるのですが、こちらもサイクリングコースとしてご紹介いただくことはできますでしょうか。また志段味サイクリングロード(都市計画道路志段味線)もあまり活用が進んでいないようなのでこの機会にアピールされてはいかがでしょう。

p. 29 グラフ「自転車駐車対策と放置自転車の推移」

このグラフですが、ふたつに分けてもいいので、駐輪場の収容可能台数と駐車総台数および放置台数とを重ねたものを用意してもらえませんでしょうか。毎年発表しておられる「自転車駐車対策の概要」ですと市営自転車駐車場の収容台数のみがグラフ化されていますが、それでは意味がないので指定管理の民営駐輪場の台数も合わせた数字でお願いします。それによって、そもそも駐輪場が足りていないのか、それとも数は足りているが利便性の問題でじゅうぶんに使われていないのかといった傾向が見えるのではないかと思いまして。

p. 31 グラフ「小・中・高等学校での交通安全教育の実施回数」

これもちょっと数字だけ見せられても良し悪しの判断がつきかねます。もうちょっと進捗がよく見えるような形式になりませんでしょうか。たとえば以下のような(あくまで一例です)。

p. 32 自転車通行空間の整備の推進が必要


「整備済み」とされている区間でも、その走りやすさには大きな差があるのが実情です。走行空間の幅によるランク分け(~1.0m、~1.5m、~2.0mなど)をしたり、歩行者と自転車の通行位置が明示されているかなど、既存路線を点検・再評価してはいかがでしょう。いくつか具体例を挙げますと
  • 鏡ヶ池線:歩道中央に植栽があって二分されているが歩行者・自転車マークがなく通行位置が不明確
  • 出来町通(赤塚交差点以西):歩道が色分けされていない
  • 山手グリーンロード(八事以北):1mあるかないかの自転車通行空間に街路樹や地上機器がはみだしていて使い物にならない
などといった問題が見受けられます。
それから車道走行に関して、「車道に自転車の通行位置が明示されている道路において車道を走行している」市民が多数派であるかのような書き方をしていますが、この記述の根拠となったと思しき平成29年度第2回市政アンケートでの設問は「車道に自転車の走行位置が明示されている道路」とだけ書かれていて、他の設問と異なり歩行者や自動車の通行量についての言及がなく、写真にも歩行者や自動車は写りこんでいません。さらに回答者の半数は自転車を「ほとんど利用しない」と答えており、「車道を走行する」と答えた人の割合が自転車利用者の実状を反映しているとは考えにくいです。

p. 32 自転車利用者の法令遵守の徹底及び安全意識の向上が課題

繰り返しになりますが、自転車事故の原因や対策を一方的に自転車に負わせるのは大きな間違いです。

p. 33 市民の健康増進のための行動が求められる

健康増進には、スポーツあるいはレジャーとしてのサイクリングよりはむしろ日々の自転車利用のほうが貢献度が高いのではないでしょうか。もちろんサイクルスポーツを否定するものではありませんし、自転車を趣味としている者としてはそのための施設が整備されるのは大歓迎なのですが。

p. 34 図「都内のある国道での事故割合」

詳しくは「有名なあの図を検証する。自転車 出合い頭事故の危険性 : ランキング日記」を参照していただきたいのですが、このデータは中央分離帯のある道路におけるものであり、対向車線を走る自動車による直接的・間接的な危険について考慮されていません。またそもそも車道走行する自転車が少なすぎて統計的な信頼性に欠ける、事故の件数にのみ注目し負傷の度合いを考慮に入れていない、といった問題もあります。そろそろこの図からは卒業していただけますようお願いします。

p. 42 道路特性や道路状況を考慮した安全な自転車通行空間を整備します。

国交省のガイドラインをそのまま引き写していないことは一歩前進です。しかし内容的には「空間再配分が可能な路線や」「必要な幅員が確保できない箇所については、暫定的に車道混在や車道走行を促す」となっており、ガイドラインの最大の問題点、つまり「困難に遭遇した場合の逃げ道がはじめから用意してある」「その困難さについてはとくに指標はないので結果としてその逃げ道しか選ばれない」という点を引き継いでいます。加えて「暫定的」という言葉も「いつかやりたいけどいつになるかわからない」程度の意味で使われているので、実質的に「恒久的」とイコールになってしまっています。
そうではなく、あくまでゼロベースで、「この路線には自動車と自転車と歩行者がこれだけ通っているが自転車を増やしてその割合をこれこれこのような値にしたいのでついては走行空間としてこれだけの幅が必要である」ということを計画段階できちんと示し、その上で道路の幅が狭すぎるということであれば、自動車、自転車、歩行者のどれを犠牲とすべきかをあらためて話し合うようにしなければ、いつまでたっても自転車通行空間整備など進みません。その話し合いの中で、市民が(直接的にしろ間接的にしろ)自動車を優先すべきだと決めたのであればそれは仕方のないことで、残念ながら名古屋市は自転車を市民の足とできるほどには成熟していなかったということです。しかしそうした話し合いの機会を市が「この路線は再配分できないね」「とても自転車道なんて作れないよ」などと決めつけることで先んじて奪ってしまうのはとうてい看過できません。
それから、整備済みとされている自転車歩行者道ですが、32ページでの指摘事項でも述べたように、通行位置が明示されていなかったり色分けが不明瞭だったり幅が狭すぎたりといった問題がありますので、点検のうえ再整備するなり整備済み路線から削除するなりといった対応が必要です。国のガイドラインでも既存の自転車歩行者道の維持整備を禁じたりはしていないはずです。

p. 43 自転車通行空間の整備延長

自転車歩行者道、矢羽根、自転車専用通行帯、自転車道といった安全性も利便性も大きく異なる整備形態をすべて同じように距離でカウントして成果指標としてしまうのは乱暴にすぎます。せめて形態ごとに違う点数・係数を設定して距離に乗じた値を使うなどすべきです。自転車歩行者道についてはその幅員がさまざまであり、使いやすさに特に差があるので、さらにきめ細かく採点することもご検討ください。

p. 43 分かりやすい路面標示の検討・整備

「ルールに則った走行が身につくように」とありますが、あくまで路面標示が自転車と歩行者の安全につながる場合のみに限定してください。たとえば自動車の駐車需要の高い路線、あるいは実勢速度が40km/hを超えるような路線にこうした自転車通行帯や矢羽根を設置しても自転車を危険にさらすだけです。

p. 44 市営駐車場(自動車)の利用を促進し、自動車の違法路上駐車を抑制します。


どんなに怠惰で悪質なドライバーでも駐車禁止の標識は読めます。彼らはべつに違反であることを知らずにやっているわけではありませんから、広報・啓発などではさしたる効果は期待できません。効果があるとすれば取締の強化ですが、継続的に実施するには人的リソースを食いすぎますし、そもそも市自身にはその権限もありません。
自転車道を作って車道と物理分離してしまえばそれで対策完了です。

p. 44 駐車場(自動車)附置義務制度の運用


自動車が駐めやすく、使いやすくなれば、自動車の利用率が上がるだけで逆効果です。むしろ次ページでも言われているように、自転車駐車場の附置義務が守られるよう、違反した事業者名の公開などの対策をすべきです。

p. 45 自転車駐車場の整備

成果指標として「放置自転車台数の低減」を掲げていますが、撤去を頻繁にするなどして自転車を使いにくくし、自転車利用者そのものを減らすことでも実現できる成果です――というより名古屋市はすでにこれを実現しています。29ページのグラフに示されるように、平成10年ごろまでは15万台を超えていた総駐車台数が、いまでは9万台を割り込むまでになってしまっています。たしかに放置自転車は減りましたが、それは自転車に乗る人が減ったからでもあります。こうしたことを繰り返さないよう、成果目標は素直に「駐輪場の収容台数」を目標とすべきです。あるいは単純に台数でカウントするのではなく、駅入り口やバス停からの距離などに応じて駐輪場に利便性係数を設定し、収容台数と掛け合わせて評価指標とするのもよいかと思います。それだと誰も使わない駐輪場が増えてもOKということになってしまうぞ、という心配があるようでしたら、目標とすべき、あるいは「適正な」収容台数というのを駅やバス停の利用者数、集客エリアの広さなどを元にして設定し、それに対する充足率という形で成果目標とできれば文句なしの100点です。

p. 45 自転車駐車場附置義務制度の運用


この附置義務制度のおかげで新しいビルに駐輪場が設置されていてたいへんありがたいのですが、施設によっては
  • 施設のウェブサイトで駐輪場の場所をまったく紹介していない
  • 機械式駐輪場では子供乗せ自転車やマウンテンバイクなどが入らなかったりする
といった問題がありますので、できれば市のほうで
  • 施設内に設置された駐輪場を掲載した繁華街自転車マップの作成・配布
  • 幅広い車種を一定の割合で受け入れられるよう義務付け
などといった対応をお願いします。とくに車種については、クルマの駐車場では車椅子利用者用スペースの用意が義務付けられていることを鑑みれば、障害者の方が利用する三輪自転車やハンドサイクルについても考慮するべきです。
また多くの商業施設では自動車の駐車場については買い物をすることで無料とするサービスが広く提供されていますが、これを自転車駐車場にも適用してもらえるような働きかけも必要かと思います。
なお、駅前の商業施設については、自施設の顧客ではなく駅利用者に駐車されてしまうことが多く、駐輪場の整備に消極的になりがちです。鉄道事業者に十分な駐輪場の整備を強く要請するとともに、駅前商業施設駐輪場の長時間利用を抑制するために、たとえば時間制とするための機器を導入できるよう施設に対して補助金を出すなどしてはいかがでしょうか。
「必要に応じ同制度の対象となる施設、要件の見直しを検討」とのことですが、ご存知のようにオフィスビルの集中する区域においても以前より自転車の路上駐輪が問題となっており(参考:名古屋国道管内自転車安全利用協議会)、すでに必要性は生じています。自動車の駐車場の附置義務は事務所に対しても課されていることを考え合わせても、自転車駐車場附置義務の対象に早急に事務所を含めるべきです。

p. 46 まちづくり団体と連携した都心部の自転車対策の推進


「歩道幅員や道路幅員に余裕のない道路」とありますが、余裕がなければ車道を減らせばいいだけです。しかし市長の意向もあってか、都心部への自動車乗り入れ制限はおろか、路上の駐車スペースの削減すらまったく実現の気配がありません。世界じゅうのあちこちで、自転車レーン整備によって周辺店舗の売上が増加したという調査結果が発表されているのですが("bike lane local business" で検索してみてください)、日本語でニュースとして報じるメディアがないため残念ながらこのことはほとんど知られていません。参考までに日本語の情報をいくつかご紹介しますが、もう少しまとまった数の記事を提供したいところです。

p. 50 交通安全運動等の推進

三度目になりますが、
  • 自転車事故のほとんどは対車両
  • 車両の運転手はその質量・速度・免許制度からいっても自転車とは比べられないほど大きな責任を負うべき
  • 車両側の大半にも法令違反が認められる
ことから、自動車運転者への働きかけを重点的に行う必要があります。人はクルマに乗ると傲慢になる、これは避けようのない事実です。目障りな自転車をちょっと怖がらせてやろうと危険行為に及ぶ運転者も決して少なくありません。そうした態度は決して許されるものではないこと、代償があまりにも高くつくことをしっかりとドライバーの頭に叩き込まなくてはいけません。
ところで、19ページで高齢者が自転車に関する交通ルールを学ぶ機会がないとの記述がありましたが、それを受けてとくに高齢者を対象とした施策というのはヘルメット着用促進以外になにもないのでしょうか。また20ページで自転車事故の多発地点を列挙しており、そうした場所の危険因子の分析や安全対策の実施なども施策に加えるべきではないかと思うのですが、これも市には権限がないとかそういったことなのでしょうか。

p. 53 小学生に対しての体験型交通安全訓練

難しいとは思いますが、ふだん子供たちが遊んでいる学区内の路上で、指導者を各所に配した上で子供たちに実際に自転車に乗ってもらって、安全に乗れているかどうかを確認するなどできると効果的ではないでしょうか。ご検討ください。

p. 53 新たな自転車交通安全教育の検討

プロチームとの連携というのは、サイクルスポーツ振興という観点からすると決して悪いことではないのですが、選手はレースのプロであって交通のプロではありません。安全教育の指導者をいかにして育成するかという点も同時に検討していただきたいです。

p. 54 交通ルール周知に関する路面標示の検討・整備

よい取り組みですが、本来であれば法定表示でしっかり伝えていくべき内容です。法定表示がわかりにくい、あるいは不足しているのだという場合は、億劫がらずに県警とも協議し、できる限り法定表示でもって安全を確保するようにしてください。また逆に法定表示でないものを法定表示と混同しそうな形で設置するのはやめてください。たとえば以下の交差点では優先道路の歩道上になぜか「止まれ」の表示が設置されています。

p. 54 海外での自転車利用ルールやマナーの教育・啓発(その2)

細かい話で恐縮ですが、タイトルに「ヨーロッパでの啓発活動」とありますがより正確に「デンマークの」とすべきです。デンマークはオランダと並んで世界トップレベルの自転車推進政策を実行している国ですが、ヨーロッパ各国がこれに追随できているかというと決してそんなことはありません。

p. 56 エコ事業所認定制度の推進

50項目近くある認定基準のうち自転車利用に関する項目はひとつだけですので、ことさら自転車活用推進計画に含めるまでもないように思えます。あるいは「優良自転車活用事業所」のような部門賞を設けてみるというのはいかがでしょうか。

p. 57 交通エコライフの推進

イラストで「社会のメリットと個人のメリット、どちらが大事?」という問いかけがなされていますが、そういうことを聞いているうちはエコライフの推進など望むべくもありません。行政がやるべきは、個人にとっていちばん望ましい選択肢がそのまま社会のメリットにつながるような仕組みづくりです。成果指標として「環境にやさしい行動を意識して移動する人の割合」を設定しているのも不適切です。街頭インタビューで「なぜ自転車通勤を?」と聞かれたときに「(そんなもん安くて速いからに決まっとるけどそれでは格好がつかんしな…)やはり環境にいいですし、運動にもなりますからね」と答えられるような街を目指してください。

p. 58 健康づくりに関する周知啓発文書による広報啓発

自転車利用のメリットもいいのですが、クルマに乗ってばかりだと運動不足で生活習慣病になるぞというのも併記してほしいです。圧力に負けず。

p. 61 自転車の歴史と産業

このコラムはいいですね。前のページの「市民が自転車に愛着を持ち」という目標によく合致しています。愛知県内というくくりでよければ、自転車フレームを作っておられるShin・服部製作所さんやドバッツさんなんかも紹介してみてください。あと、本業は自転車販売ですが、自社プライベートブランドを企画・製造しているという意味ではジョイやサイクルディーラークワトロなんかもメーカーと言って差し支えないのではないかと。

p. 62 IoTの活用による自転車駐車場の運営等の効率化や公共交通との連携を推進する

公共交通との連携といえば、サイクルトレインですとかあるいは市バスへの自転車ラック増設なども要検討課題ではないでしょうか。

以上が、自転車活用推進計画に書かれている内容に対する意見です。ここからは、計画に書かれていないことについていくつか提案したいと思います。

橋梁や河川管理用通路へのアクセス

川を渡ったり河川敷の道路を利用したりするには当然川の堤防に登らないといけないのですが、堤防へのアクセスルートは現状では十分とはいえません。橋のスロープに歩道がなかったり、あっても車線の片側だけだったりしますし、(橋がないところも含めて)堤防に上がるにためにきついスロープを自転車を押して登らないといけなかったりします。
例:千代田橋への南側からのアクセス路(片側2車線)には歩道がなく脇の階段を登らされます

川だけでなく線路を高架で渡る場合も同様です。子供乗せ自転車に子供を乗せていたり、あるいは買い物帰りで前カゴを満杯にした高齢者の方などにとっては、といいますか車椅子や双子用ベビーカーなどの交通弱者全般にとってということなのですが、こうしたアクセスルートは実質的には通れません。自転車利用課にとどまらず緑政土木局全体、はては県や国交省とも連携を深め、道路のバリアフリーについて考えていただきたいと思います。

河川管理用通路の自転車道としての利用

天白川や矢田川の高水敷の通路は信号もなく自動車も走っていないため非常に質の高い自転車走行空間といえます。しかしながら接続性の悪い区間や歩行者との共存が難しい区間などもあり、さらなる改善が望まれます。尾張旭市では県と協力して矢田川の散歩道を拡張し自転車通行空間とする工事を始めました。名古屋市でも同様の取り組みをぜひともお願いします。

自転車通行空間の利用実態

どういった整備形態を選択すべきかについての国のガイドラインは残念ながら科学的統計的根拠に欠けているため(参照:「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」についての意見)、各自治体にはこれを参考にせず独自基準でもって「選ばれるインフラ」を整備していただきたいのですが、そのようなことは恐れ多くてとてもできないというのであれば、せめて作った自転車通行空間が役に立っているのかどうか、整備前後できちんとデータを収集して評価することは忘れないでいただきたいところです。本年度実施予定だった全国道路・街路交通情勢調査は延期になってしまったようですが、この調査の実施にあわせて最低でも既存の自転車インフラにおける走行位置ごとの自転車通行量測定を行い、どういった整備形態が利用者に好まれているかをしっかりと把握するようにしてください。

NACTO Global Street Design Guideへの批准

もしも「国のガイドラインがおかしいことはわかったけど、それに代わるものを作り出すのは独力では難しい」ということであれば、NACTO(全米都市交通局連合)の作成したGlobal Street Design Guideがおすすめです。世界中の道路設計の最新ノウハウを取り入れており、なにより(オランダ語やデンマーク語ではなく)英語で書かれているので比較的敷居が低いといえます。日本では渋谷区が初めてこのガイドへの支持を表明していますのでよろしければコンタクトをとってみてください。

費用と実績の見える化

市が毎年発表している行政評価は拝見していますが、少なくとも自転車に関しては項目が大まかすぎて、いいとも悪いとも言いがたいというのが感想です。もっと細かく、以下のような分類でもって毎年の数字を公開し、市民自身で行政評価に取り組むとともに自転車行政への参加意識を高められるようにしてください。
  • 実績(あるいは測定)
    • 駐輪統計(自転車利用の基礎となる重要なデータですので、市民情報センターに冊子を配置するだけでなくデジタルデータの公開をお願いします)
    • 定期利用の契約率
    • 撤去・リサイクル統計
    • 新規自転車通行空間整備区間の位置と長さ、整備前後の通行量と位置の変化
  • 費用
    • 駐輪場・保管場の借地料
    • 撤去・保管・返還費用(指定管理者側で算出していないのでしたら算出するよう求めてください)


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