第3回名古屋市自転車活用推進計画有識者懇談会を傍聴してきました

前回の懇談会から4ヶ月ちょっと空いた令和2年1月29日に開催された、第3回名古屋市自転車活用推進計画有識者懇談会を傍聴してきました。今回は計画の素案ということで98ページもある立派な冊子が配られたのですが、さすがにこれに対して細かい突っ込みを入れたりするのではなく、要約版のスライドをベースに話し合いが進められました。

今回驚いたのが、自転車担当課の中ボスみたいな方がしきりに「まずは通行空間の整備を第一に」と言っておられたことでした。この考え方が課内であるいは市役所内でどこまで共有されているかわかりませんが、一人でも多くの方に賛同していただけるようがんばっていかないと、と決意を新たにしました(大げさですかね)。

それでは気になった発言を取り上げてみたいと思います。
後藤氏(名古屋市区政協力委員議長協議会副議長):親御さんが小さい子供連れで自転車に乗るときは、親が車道、子供が歩道を走ることになるが、歩道が片側にしかない道路だと並んで走れない。なんとかなりませんか。
これに対する県警の方の回答は
自転車通行可の歩道であれば親も歩道を走れます。また6歳未満であれば親の自転車の後ろに乗せるということも可能です。しかし、車道で駐車が連続しているだとか工事中で危険であるならともかく、保護、監護のためという理由で歩道を走ることは現行法上できません。もちろん現場でそこまで細かく取り締まることはないのですが、事故にあわれた場合には道交法にしたがっていたかどうかが問題となるかもしれません。
という、まあ警察のコメントとしては100点満点といってよいものでした。しかし残念だったのが
嶋田氏(大同大学教授):いちばんいいのは歩道で親が自転車を押して子供のうしろを歩くことですね
という発言。自転車があぶない→そうだ押し歩きさせようみたいな話は全国津々浦々で聞くのですが、せめて自転車を活用推進しようという会議では自転車がその性能を活かせなくなるような制限を気軽に導入するのはやめていただきたいです。背景にはおそらく「子供の走るスピードなんて大したことはない」という思い込みもあったのでしょうが、いまどきのストライダーで鍛えられた子供をなめてはいけません。実際のところだいたいの目安として、タイヤのインチ数と同じぐらいの時速が出ます。5歳なら16インチで16km/h、7歳なら20インチで20km/hです。自転車を押しながらはもちろん、手ぶらで走ってもまず追いつけません。
ではどうすればいいのかというと、そんなもんケースバイケースとしかいえないのですが、歩道が片側にしか作れず、自転車通行可にもできないほど狭いのなら、歩道を取っ払って20km/h制限にするのがよいのではないでしょうか。みなさんの大好きなシェア・ザ・ロードというやつです。狭い道路ですからみんなで仲良く分け合いましょう。「自転車並進可」標識も設置していただけると最高ですね。20km/h制限ならどうせクルマも追い越せませんし。
鈴木氏(名古屋工業大学准教授):自転車通行空間整備、ネットワークとして計画的にといっているが、問題のある箇所はすぐにでも対応すべき。また路面標示もいいが構造的なところもしっかりやってほしい。
事務局:現実的には事故があれば警察と話し合って対策するようにしている。道路構造については、来年度道路構造令を改正予定。
道路構造令と言っているのはおそらく名古屋市の道路構造の技術的基準を定める条例のことかと思われますが…もしかして昨年4月の道路構造令の改正を反映させるということでしょうか。この改正では「自転車通行帯」についての記述が追加されましたが、「やむを得ない場合には幅を1mまで縮小できる」とされ、おまけに自転車道の要件として「設計速度が一時間につき六十キロメートル以上」を追加しており、結果としてほとんどの路線に幅1mの自転車通行帯が作られるのを許容する内容となっています。これに関しては「使えない自転車レーンが作られ続ける? - 自転車専用通行帯の仕様を道路構造令に加える改正案(4月11日までパブコメ募集)についての対話 - Togetter」にて問題点が詳細に指摘されていますが、かいつまんでいえば「世界基準では自転車通行帯は通行量の少ない道路にしか作られないし、作られるにしても駐車対策とセットだ」ということです。日本の道路構造令を鵜呑みにして自転車通行帯を作るとどうなるか? その例は身近なところにあります。そう、桜通です。
下のスライドは第2回名古屋国道管内自転車安全利用協議会の資料からの引用ですが、自転車道と自転車レーン(自転車通行帯)が連続している区間であるにもかかわらず、その利用率には大きな開きがあります。


しかも、自転車レーンが使われるのは朝夕の歩道が混んでいる時間帯だけで、それ以外の時間帯はほとんどの自転車が歩道を走っているのです。


なぜか? そりゃクルマのすぐとなりを走るのは怖いからです。駐車車両があってよけながら走らなくてはいけないとなればなおさらです。


よく「名古屋市は道路空間が豊富なのでそれを生かした交通体系を」などと言われますが、いまこそそれを実現すべきときです。自転車道を作ればみんなそこを走ることがわかりきっているのですから、国の道路構造令など放っておいて、自転車道を作りましょう。
三国氏(NGO地球の友・金沢):東京も大阪も名古屋も自転車政策として何をやっているのか見えてこない。対して京都では「みえる化」ということでコンパクトにやれることからコツコツやって交通事故の減少という成果が出た。
これに関しては、三国氏が京都市自転車政策審議会のメンバーだったというだけで、まあたしかに京都・新自転車計画はなかなか細かく作り込まれているなとは思いますがそう目新しいことをしているわけではないですし、交通事故が減ったこともほんとうに自転車政策のおかげなのかというと眉唾ものです(参考:perfect comes from perfect: 検証:「京都市の『計画』の驚くべき成果」)。
ただしこの「みえる化」というキーワードは採用すべきかもしれません。つまり自転車関連施策の成果の「みえる化」ですね。どんな自転車利用者がどこをどれだけ走っているのか、どんな事故がどこで何件発生しているのか、そういったデータを定期的にしっかりと収集し、自転車通行空間の整備や安全教育といった施策がきちんと成果を出しているかどうかをエビデンスに基づいて判断できるようにするのです。前述の桜通のデータなどはそれがきちんとできている良い例です(欲を言えば事故データについても調べてほしいところですが)。名古屋市の取り組みに期待します。
嶋田氏:愛知県も自転車活用推進計画を策定する予定だがなにか関連は?
事務局:県にも意見を伝えようと思っているのだがなかなかその機会がない。
まあ、どっちでもいいのでとっとと歩み寄ってくださいお願いします。
三国氏:ヨーロッパでは街中では自動車の速度を大幅に制限してゆっくり走らせたりしている。この計画でもそういう未来の夢を掲げてもいいのでは。
夢ではなく実現すべき目標ですね。
加藤(博)氏(名古屋大学教授):自転車の空間整備については、車道でも歩道でも、とにかくどこを走るかがはっきりしていればいいのでは。
そこが最低限の目標かとは思いますし、自転車利用ワークショップでも最後のグループ発表でそのような発言をした記憶があります。しかし歩道上で(自転車側にその気はなくとも)歩行者を脅かしたり、歩道の段差でカゴから荷物が飛び出さないように気を遣いながら走ったりしていては、なかなか自転車の地位向上につながらないのですよね。やはり「自転車ってこんなに楽に早く目的地に着くんだ」→「クルマじゃなくていいね」という流れを呼び込むためにも、独立した走行空間の整備が必要です。
愛知県警:警察としては安心・安全がいちばん大事。ヘルメット着用も重視していきたい。昨年の県内の交通事故死亡者数156名中25名が自転車だったが誰もヘルメットをかぶっていなかった。市の職員も着用するようにしてほしい。
取り組みを頭から否定するつもりはありませんが、ヘルメット着用の効果には様々な議論があることは押さえておいていただきたいです(参考:ヘルメットはかぶるべきか? BBCテレビ番組がきっかけで再燃した是非論 - cyclist)。

懇談会での発言については以上です。当日配布された計画素案についてもパブリックコメント前にコメントしておきたいものですがまた別記事にて。

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