鉄道駅に自転車でもっとたくさんの人に来てもらうには?

私は以前、名東区に住んでいたことがありまして、駅までの距離は1km弱だったので地下鉄に乗るときはふつうに自転車で出かけていました。ところが名古屋市お得意の放置禁止区域+駐輪場有料化のコンボを食らって駐輪場の収容台数が減ってしまい、自転車で駅まで行っても駐輪場の空きがぜんぜん見つからなくなってしまいました。

まあそれで私は地下鉄に乗らず目的地まで自転車に乗っていくことを選ぶようになりまして、幸い今まで事故に遭うこともなく自転車に乗り続けているわけですが、同様の憂き目にあった名東区民の何割かは自家用車で出かけるようになったはずで、名古屋市のいう「適正な自転車利用」というのは「名古屋市がどうにかひねくりだした予算に見合った利用者数」と同義じゃないかと当時から憤っていたわけですが、しかしじゃあ駅前の駐輪場はどれぐらいあれば十分と言えるのか?

こういうのは大学の都市工学系の研究室が何年もかけてやるようなことだと思うのですが、まずは駅利用者の自転車需要がどれほどのものかというところから考えてみようということであれこれやってみました。

駅別駐輪台数

名古屋市では鉄道駅やバス停付近の駐輪状況を毎年調査しています。調査結果は残念ながらウェブサイトでは公開されていないのですが、請求すれば送ってもらえます。とりあえず新型コロナウイルスが現れる前、2019年(令和元年)のデータを眺めてみました。

中村日赤は両隣の駅が近いことを考慮に入れてもずいぶん自転車が少ないですね。覚王山も池下が近いこと、本山との間を分断する田代本通が覚王山寄りにあることを考えても自転車の人気がありません。

ナゴヤドーム前矢田、砂田橋は南側に住居が少ないのでわかるとしても、総合リハビリセンターの低調っぷりが解せません。自由ヶ丘は東側に平和公園が広がり、妙音通は隣接する駅に利用者を食われている雰囲気です。
上小田井が地下鉄終端駅としても異次元の吸引力を見せつけます。いりなかは近くにある八事日赤とともに自転車には敬遠されています。
鳴子北は相生山緑地に隣接するのでわかるとして、瑞穂運動場西、桜本町、おまえたちどうした…? と言いたくなります。
あおなみ線のことは恐ろしいほどよくわかっていない(©ドクター・ストレンジ)。

などなど適当なコメントをつけることはできるのですが、じゃあこの駅で自転車が少ないのはそもそも利用者が少ないからなのか、それとも全利用者における自転車の割合が少ないのか、などさっぱりわかりません。

鉄道利用者に対する自転車利用者の割合

もうちょっと別の統計にもあたってみます。

これで市内の鉄道駅の一日あたり乗車人員がわかるのですが、乗り換え客も含む数字なので、どうにかして初乗り客の人数だけを求めたい。検索して、手がかりになりそうな資料を見つけました。

「4 ターミナル別乗換え人員表」というやつで、これを見れば初乗りが何人、乗り換えが何人というのがわかりますので、この表で求めた初乗り客の割合を最初の乗車人員に掛けてやります。しかしこのままでは、その初乗り客が往路と復路どちらで電車に乗ったのかわかりません。駐輪場に自転車を駐めるのは

  1. 自宅と最寄り駅との間で自転車を使っている人(=朝に家を出て鉄道駅にやってきて自転車を駐めて電車に乗る)
  2. 職場や学校とその最寄り駅との間で自転車を使っている人(=夕方に鉄道駅にやってきて自転車を駐めて電車に乗る)

の二種類いるわけですから、これらを区別する必要があります。あいにくこの二種類を直接見分けられるような統計は見つからなかったのですが(たぶん存在しません)、名古屋市交通局に相談したところ、「地下鉄交通量調査表」というものをご提供いただきました。

名古屋市営地下鉄では、二年に一度11月頃に乗降者数を調査し、冊子に編集。

市政資料館、鶴舞中央図書館、市会図書館、女性情報センター、都市センター、国立国会図書館に提供し、公開しています。

この調査表を見ると、1時間ごと(朝夕の時間帯は30分ごと)の乗車(改札IN)人員・降車(改札OUT)人員の数がわかるようになっています。住宅地に近い駅だと午前:降車人数<乗車人数、午後:降車人数>乗車人数となっていて、繁華街の駅だとこれが逆転します。そこでざっくり「午前中(~13:00)の乗車人数÷まる一日の乗車人数」を初乗り人数にかけてやることで、駅の駐輪場に自転車を日中置いている人数としてみました。

説明が長くなってしまいましたが、以下のグラフが

駐車台数÷(一日平均乗車人数×初乗りの割合×午前中に乗車した人の割合)

を駅ごとに集計したものになります。


まずは東山線。覚王山の自転車比率が低いのは丘の上だからかな? という気もするのですが、だとすると池下と本山にもうちょっと流れてもよさそうなのですが、どちらも5%前後に留まっているのは、地下鉄(というか県道名古屋長久手線)沿線にだけ高層マンションが建ち並んでいて徒歩の乗客が多いのかも。猫洞あたりにもいっぱいマンションが建ってるんですが、あそこは帰り道が登り坂になるのと、猫洞通が狭くて自転車向きでないというのがありそう。あと星が丘、本郷、藤が丘あたりはバスで駅まで来る人がわりと多かったりするのですが、それを言うなら中村公園や高畑だってそうなので、いささか不可解ではあります。
続いて名城線。矢場町、久屋大通は駅の利用客というよりは周辺で働く人たちが駐輪しているのでしょう。今年度から放置禁止区域になってしまったので、もはやこんな数字にはならないでしょうが。注目すべきは大曽根で、地下鉄・JR・名鉄が乗り入れていて利用客が遠くから来ることを考慮しても驚くべき利用率です。たぶんですけど、駅通路入口のすぐそばに600台規模の駐輪場があり、周辺もあわせると2千台ぶんと破格の収容力をもつ駐輪場が整備されていることが大きいのではないでしょうか。
解せないのは八事~新瑞橋の低調ぶりです。新瑞橋はバスターミナルがあるからかとも思ったのですが、同じくバス降車客の多い黒川が数字を伸ばしていますから、他に理由があるはず。
お次は鶴舞線です。実は手元に駐輪場の収容台数の資料もありまして、八事なんかはまったく足りていません(駐輪場からあふれています)。いりなかは統計上は余裕があるのですが、ストリートビューを見ると一時利用が満車なので定期利用との配分に問題があるのかも。御器所も駐車381台/収容797台と数字的には余裕があるのですが、山王通をはさんだ北側に駐輪場がないので、北側の住民に敬遠されているような気がします。

最後は桜通線。瑞穂運動場西もストリートビューだと一回利用ばかりが埋まっています。鳴子北は絶対数だけでなく割合も低いという驚きの結果に。大規模駐輪場が1箇所だけというのがまずいのでしょうか。地下鉄の入り口からは160~170mと微妙なところではあるのですが…。

自転車利用者に人気のない駅がわかったよ(駐輪場が足りないせいとは言ってない)

というところで、まあなんとなくではありますが、だいたい上のグラフで8%を切るようなところは、平均的な駅よりも自転車利用率が低いということで、なにかしらテコ入れを考えてもよいのではないでしょうか。もちろん「8%を切っているのはおかしい!」と言い切れるものではありません。そもそも地下鉄駅のポテンシャルは? 徒歩圏内、自転車圏内に何人が住んでいるのか? 就学人口、労働人口の割合は? などなど自転車利用に影響する要素は他にも山ほどあります。しかしとりあえず、こういったグラフで調査対象をある程度絞り込んだ上で、たとえば自転車駐車場が十分近いところに必要な数だけ揃っているか、みたいなところから手を付けてみるのはどうでしょう。アイディアとしては、一時利用枠の利用率の経時変化と、定期利用枠の契約率の推移あたりを調べることで、枠の調整でなんとかなりそうなところ、ならないところを洗い出せるのではないかと思っています。

え? そんなこと名古屋市はとっくにやっていて、それでも場所が確保できなくて困っている? そういうことでしたら次は、予算獲得のためになにができるか考えないといけませんね。やはり市民の声を集めて議会に届けることで、予算を承認してもらえるようにするのが正道でしょうか。私たちにどんなお手伝いができるか、いっしょに考えていきましょう。

コメント