豊田薫市議が名古屋市議会本会議で自転車の安全教育と利用環境について質問

減税日本の豊田薫市議(中区選出)が令和3年6月25日の本会議個人質問で自転車をめぐる現状と課題について発言しておられたので、文字起こししておきました。

豊田議員『議長にお許しをいただきましたので、通告にしたがい順次質問いたします。はじめに、自転車の交通ルールの遵守に向けた取り組みについておたずねします。かねてより自転車は、子供からお年寄りまで幅広い方が気軽に利用できる移動手段として親しまれてきましたが、昨今のコロナ禍において、人との接触を軽減する取り組みとして、また飲食宅配代行サービスの需要の高まりなどもあり、自転車利用者が増えています、そのいっぽうで残念なことに、スマホを見ながらの運転、信号無視、一時停止無視、右側通行、歩道におけるスピードを出した危険な走行など、交通ルール違反の自転車を見かけることがあります。
こうしたルール違反が横行する要因の一つとして、年齢によって通行できる場所が変わるなど、自転車の交通ルールのわかりにくさが挙げられます。それにもかかわらず、自転車に関する交通ルールを学んだことがある市民は全体の4割であり、年齢層が高くなるにつれその割合は減少しています。本市が平成29年に実施した市民アンケートによれば、歩行者も自転車も自転車マナー向上や自転車利用者への交通ルールの周知を望んでいます。市民の命と体を守るため、自転車のルール違反をなくしていくことが必要ですが、そのためには交通安全教育の充実が求められるのではないでしょうか。そこでスポーツ市民局長にお尋ねします。今後、自転車関連事故を防止するために、子どもから高齢者まで幅広い年齢層の市民または外国人市民に対し、どのように交通ルールを周知し遵守してもらうのか、あわせて飲食宅配サービスの事業者に対してどのように働きかけていくのか、ご答弁をお願いします。
次に、安心安全に自転車を利用する環境整備についておたずねします。 自転車は道路交通法で軽車両に分類され、本来車道を通行すべきものとされていますが、これまで多くの歩道が自転車通行可能となっていました。本市においても、令和元年末時点で118.2kmの自転車通行空間が整備されていますが、そのほとんどは歩道内となっています。そうした状況の中で、平成23年には警察庁から自転車が車道通行が原則であることが改めて示され、平成24年には国土交通省および警察庁が作成した「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」でも車道での自転車通行空間整備が明記されました。一方で、先に挙げた市政アンケートによれば、車道に自転車の通行位置が明示されている道路では、車道を走行する人が約8割だった一方で、車道に自転車の通行位置が明示されていない道路で、歩道に歩行者が少ない場合、歩道を走行する人が約8割との結果が示されています。日本自転車普及協会による自転車の利用に関する意識調査においても、車道は怖いから歩道を走行するという利用者もあり、車道での自転車通行空間整備という国の方針と、自転車利用者の意識に乖離がみられます。そこで緑政土木局長におたずねします。中区栄にある区間では、交差点ごとに車道の左側に自転車マークや止まれの表示が路面に描かれて、また歩道には「おしチャリ」と描かれた路面表示シートが貼ってあるのをみかけます。このように路面表示による交通ルールの見える化を行うことで、交通ルールがわかりやすく市民に浸透するのではないかと感じます。自転車の交通ルールの周知には、広報啓発だけでなくこういったハード整備も非常に効果的だと考えますが、安全で安心して自転車を利用できる環境整備に向け、今後どのように自転車通行空間の整備を進めていくおつもりでしょうか。ご答弁をお願いします』

寺澤スポーツ市民局長『スポーツ市民局に対しまして、自転車をめぐる現状と課題に関し、自転車の交通ルールの遵守に向けた取り組みについておたずねをいただきました。本市におきましては、自転車の安全利用を促進するため、「広報なごや」をはじめとする各種広報媒体を活用し、広く市民に対し交通ルールやマナーの広報啓発を行うほか、年齢に応じたリーフレット等を作成し、発達段階に応じた交通安全教育を行っています。また地域におきましては、交通指導員による自転車の交通安全教室を愛知県警察等と連携して開催するほか、自転車シミュレーターを活用した参加体験型の啓発を実施いたしております。いっぽう外国人に対しては、転入時にお渡しするウェルカムキットにおいて交通ルールを紹介しており、またウェブサイトに掲載しているやさしい日本語及び7言語に翻訳した啓発チラシにつきましては、関係機関の助言をいただきながら、より分かりやすい内容に作り直して活用していくことを予定いたしております。さらにコロナ禍で需要が高まっている飲食宅配代行サービスの事業者に対しましては、現在愛知県警察と連携し、実技を交えた講習会を実施いたしておりますが、今後業界団体で構成する協会を通じ、配達員への注意喚起を行っていくことを検討してまいります。自転車利用者が増加傾向にある中、交通事故防止を図るため、自転車の交通ルールやマナーもいっそうの周知徹底に努めてまいります。以上でございます』

酒井緑政土木局長『自転車をめぐる現状と課題について、緑政土木局に対しましては、安心安全に自転車を利用できる環境整備に関しておたずねをいただきました。本市におきましては、幹線道路の広幅員歩道を活用した自転車通行空間整備を進めてまいりました。しかしながら、平成23年10月に警察庁より発出された通達におきまして、自転車は車道通行を原則とする、との方針が改めて示されたことを受け、平成24年度以降につきましては、車道における自転車通行空間整備を進めているところでございます。
議員からご指摘のありました、交差点付近の自転車のピクトグラムや路面表示シートは、交通ルールやマナーの見える化を目的として、昨年度、歩行者や自転車の交通量が多い栄地区の生活道路におきまして、面的に設置したものでございます。 今後につきましては、歩行者や自転車が集中するエリアなどを優先エリアと設定し、そのエリア内で自転車の交通ルールやマナーの周知を目的とした路面表示の整備や、歩行者、自動車、自転車それぞれの通行位置の分離を目的とした自転車通行空間の整備を行ってまいります。あわせまして、自転車通行空間のネットワークの視点から、名古屋市の管理する幹線道路に加え、直轄国道とも連携し、安全で安心して自転車が利用できる環境整備を進めてまいりたいと存じます。以上でございます』

まずルールについて。自転車に関する道路交通法が非常にややこしいことは事実なのですが、そのややこしい部分での違反が事故につながることはそう多くはありません。数で言えば、名古屋市内の自転車関連事故死傷者3,352人中、安全不確認(1,613人)と動静不注視(593人)によるものが3分の2を占めています(平成27年統計より、データが若干古くてすいません)。この3分の2の人たちは、わかりやすいルール違反をしたわけではなく、
  • 車両に気付かなかったり
  • 車両の挙動を予測しそこなったり
  • 自動車を避けられる、間に合うと思って間に合わなかったり
したことで事故に遭っているわけですから、「ルールを守れ」と言うだけでは事故防止につながりません。むしろ自分の知的・身体的能力に懐疑的になること、謙虚であることが安全運転のためには重要であり、市民に対する交通教育においてもそういった側面を強調するカリキュラムが求められるのではないでしょうか。
扱いが難しいのが信号無視と一時不停止で、いずれも高い割合で死亡事故につながっています(負傷者がそれぞれ60人と127人に対して死者が3人と5人)。これも根本的には「赤信号だけどこのタイミングなら間に合う」「音がしないからクルマは来てないだろう」という判断ミスが根底にあるのですが、そもそもそういうミスを起こさないためにも「ごちゃごちゃ考えずに止まれ」という意味で信号や標識があるわけですから、「ルールを守れ」と言うことにも一定の合理性があります(そりゃそうですよね)。で、ルールを守らせるためには教育だけでなく警察による取締りも大事なわけですが、愛知県警はこれについてはいまのところ前向きに取り組んでいる様子が見てとれます。

検挙者数が平成27年から増え始めたのは、これはもう間違いなく同年に導入された自転車運転者講習制度のためでしょう。県警がこの調子で取締りにいっそう力を入れてくれれば、遠からず目に見える成果があらわれるに違いないと期待しています。
ここでひとつ懸念がありまして、名古屋市内における一方通行道路というのはほぼ100%自転車は規制対象外なのですが、そうした道路の交差点における「止まれ」標識というのは順方向にしか設置されていません。もちろんそのような交差点では、合法的に逆走している自転車も一時停止したほうが安全なのですが、交差点の反対側の標識・標示まで見るようにするというのは現実的ではないですし、そうした義務もありません。上記の「安全不確認」「動静不注視」事故の中にはこのような一時停止交差点を逆走通過中も事故も一定数含まれているはずですが、それがどの程度の割合なのかは今のところ知るすべがありません。

次に走行空間について。車道で整備しましょうというのはそれはその通りなんですが、警察が言っているから、ガイドラインに書いてあるから、という表面的なところだけをとらえてしまうと、じゃあ矢羽根を描いておこうか、道路の端っこの余ったところに色を塗っておこうか、という話になってしまうわけです。なぜ車道なのかといえば、歩道というのは車道としっかり分かれていて安心なのだけど、自転車はゆっくり走りなさいと法律で決められていて本来の能力が発揮できない、そしてなにより歩行者の安全を脅かすことになるという問題があるわけです。それに対して、「じゃあ法律に書いてある通り、車道のはじっこで」というのは、「安心」の部分を無視した誤った対策なのですが、残念ながらその誤りを指摘できるだけの力を持った地方自治体はどこにもありませんでした。そもそも平成23年の警察庁通達からして、推進すべき対策として真っ先に挙げられているのが「自転車専用の走行空間の整備」だったのですが、警察庁の立場としてはそれを市民に言ってもしょうがないので結果として「自転車は車道が原則です」というフレーズだけが注目されてしまうことになったのでしょう。
実のところ名古屋市は、この通達以前はそれなりの成果を出していまして、緑政土木局長の言うところの「幹線道路の広幅員歩道を活用した自転車通行空間整備」によってまあまあ充実した自転車ネットワークを作りかけていました。その一部では、鶴舞周辺のように歩道空間を転用して自転車道という専用の走行空間を整備したり、あるいは江川線や山王通のように法定外表示でもって歩道上を「ソフトに分離」したりといった手法によって、なかなか真似のできない高品質な(日本においては、という但し書きつきですが)自転車通行空間を実現していたのです。しかし通達以後はそうした歩道上の空間の改善がいっこうに進まず、いっぽう車道空間における整備も、桜通りや伏見通りのような国道、国の予算を投じた路線を除くと、瀬戸街道や千種公園前のように狭い車道スペースに無理やり自転車レーンをねじ込むような形態でわずかな路線が整備されたのみで、停滞しているといってもさしつかえのない状態です。自転車利用環境について質問されるのであれば、ぜひともこの停滞について厳しく問いただしていただきたかった、というのが市民としての感想です。
市では名古屋市自転車利用環境整備推進会議なるものを開催して自転車利用環境についての議論をしているのですが、残念なことにその中身は「ネットワークが完成したら730kmになります!」みたいな寝言ばかりで、誰にとってもほんとうに安全快適な走行空間とはどんなものなのか、それをどんどん作っていくために解決しなければいけない課題はなにか、といった具体的な話題はいっこうに出ていません。こうした状況を変えるために私たちに何ができるのか。いっしょに活動していただけるという方はよろしければ記事にコメントなどお願いします。

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