名古屋市議会で自転車活用推進計画が議題に

市議会といっても本会議ではなく、令和2年12月18日の土木交通委員会でのことで、計画も市民に公表される前の「案」の段階ですが、委員をつとめる市議のみなさまから質疑があり、緑政土木局がそれに答えています。会議録のほうはしゃべった言葉がそのまま文字になっていていささか読みにくいので、要約したものをご紹介します。

沢田ひとみ市議(減税日本、港区選出)「名古屋市では一定規模以上の商業施設などに条例で自転車駐車場の設置が義務づけられている。計画案によれば、同制度の対象となる施設の拡大や要件の見直し等を検討しますということだが、具体的な検討内容は」

路政部自転車利用課長「現在の附置義務対象は商業施設を中心としているので、例えば学習塾や病院、スポーツクラブなどは対象外になっている。しかしながらそういった施設の前に放置自転車が多いという現状がある。一方では車のディーラーや大型ショッピングセンターについては、非常に台数の多い附置義務になっているが、実際には車での来所者が多いということなので基準の見直しを検討している。また設置台数の根拠についても、施設ごとに細かく決まっているが、なるべく統一化するような整理を検討している」

対象施設の拡大は評価できますが、依然として施設の利用者あるいは来客を対象とした自転車駐車場しか念頭にない点は残念です。都心のオフィス街では、自転車通勤者が自転車を職場の近くに駐輪したがるため、駐輪場が不足しています。


上の資料は第4回名古屋国道管内自転車安全利用協議会のものです。こうした駐輪需要に対応するためには、一定以上の規模の事業所、あるいは多くの事業所を抱えるビルにも従業員用の駐輪場の設置を義務付けることが求められます。

それから、大型ショッピングセンターの附置義務が非常に多い、とのことですが、私の知る限り、市内6~7箇所のイオンモールの駐輪場はほどよく埋まっています。なにをもって「非常に多い」と判断されたのか、いずれ問い合わせてみたいと思います。

手塚将之市議(減税日本、千種区選出)「栄地区に止められている自転車が現在12,000台、それに対して2023年までに駐輪場の収容台数を5,500台から7,000台に増やすということだが(※計画案にはこのような数値目標があったのですが公開版では削除されています)、足りない5,000台分についてはどうするのか」

局路政部主幹「駐輪場の有料化または放置禁止区域の指定によって流入量を抑える、附置義務制度の変更によって駐輪場を増やす、シェアサイクルの利用拡大などで対応し、それで足りなければ駐輪場を整備する」

手塚委員「有料化によってどの程度流入が抑えられると考えているのか」

局路政部主幹「これまで有料化した他の駅でのデータでは大体6割ぐらいまで落ち込む。いずれにしても地域の理解と合意を得ながらやっていく必要がある」

手塚委員「昨年策定された総合計画では令和12年、2030年度までに放置自転車を11,000台まで減らすという目標が示されたが本計画では8,000台となっている(※公開された自転車活用推進計画にはこのような数値目標は示されていません。計画案にのみ掲載された数字と思われます)。この差はなぜ生じたのか」

路政部自転車利用課長「総合計画2023の目標値を定めたのは昨年の9月だが、その後、今年の3月に本市の放置自転車が2回連続でワーストワンになったことが多くのメディアに取り上げられた。こうした背景を踏まえ、放置自転車が多い栄を中心とする都心部において、令和12年度までには放置禁止区域の設定及び有料化を進めるということで方針を固めた。これにより放置自転車を約4000台削減できると見込んでいる」

たしかこれは自転車「活用推進」計画についての質疑だったはずですが、当局の意識は自転車政策といえば駐輪対策のことだった20年前から変わっていないようです。でなければ「駐輪場有料化によって流入量を抑える」などという発言が出るわけがありません。

手塚委員「有料駐車場93駅で収容可能台数が8万2269台、駐車台数が5万3816台、利用率はおよそ65%というデータを示していただいた。利用率の高いあるいは低い駐車場のサンプルを幾つか挙げてもらえるか」

路政部自転車利用課長「令和2年10月現在で利用率の高い上位3か所は、あおなみ線の南荒子駅が98.7%、小本駅が95.8%、名城線の瑞穂運動場東駅が93.2%である。一方で利用率の低い下位3か所は、名古屋大学駅11.2%、あおなみ線の野跡駅26.4%、東別院駅の27.4%である」

ちなみに各駅の収容台数ですが、令和元年度の時点では南荒子駅170台、小本駅127台、瑞穂運動場東駅256台(市営198台、指定管理58台)、名古屋大学駅149台、野跡駅62台、東別院駅728台(市営544台、指定管理184台)となっています。東別院は高速道路の高架下を150mほどまるごと市営駐輪場にしていて収容台数がものすごい数字になっています。利用率27.4%といっても200台になりますので、それなりに使われているといってもよいのではないでしょうか。もっとアクセスのよい(=なかなか青にならない歩行者用信号を渡らなくてもよい)駐輪場があればさらに伸びるかもしれません。

手塚委員「例えば藤が丘の駐車場でちょっと遠い駐車場がある。果たしてそれぐらい利用されているのか、本当に必要なのか見に行ってみた。すると、みんな自転車をどこに止めているかというと、駅を降りて、たい焼き屋さんがあって裏側に広場があるのだが、放置自転車禁止であるにもかかわらずそこに止めている。地元ではにぎわいの創出空間にしたいというような話もあると聞いているが、そうしたときに本当に5分10分離れた駐輪場に自転車を止めに行ってくれるのか疑問である。近隣にあったほうがより駐輪ニーズを満たしたものになるのではないか」

路政部自転車利用課長「離れた自転車駐車場では利用が少ないというのは事実である。そういった場所については、現在の指定管理制度の中でも、駅から遠いところは定期料金を安く設定するといったことが可能である。ただし上限値が1回利用につき100円となっていて値下げが難しいという問題もあるので、制度を見直して、より利用者ニーズに合ったような自転車駐車場に変えていきたい」

手塚委員「自転車の利用はこれから増えていく。必要な場所に駐輪する場所がある、駐輪ニーズを満たした場所に自転車駐輪場があるのが適切な姿であり、そうすることによって放置自転車の台数は減っていく。他都市では、駅前にあるコインパーキングに協力してもらって一部自転車駐車場にして利便性を高めるといった取組が行われている。たとえば京都市では平成21年に民間自転車等駐車場整備助成制度ができた。駅から250メートル以内、一般公共の用に足す、収容台数10台以上、5年以上造ってください、上限は600万円、といった内容。横浜では平成6年から横浜市民営自転車場駐車場整備費補助事業が始まった。こちらは駅からおおむね300メートル以内、一般公共の用に供する、容台数20台、10年以上継続してください、上限500万円、といった制度である」

路政部自転車利用課長「京都市については実際に問い合わせ、補助金を交付して、自転車駐車場を民有地に整備してもらうことで非常に高い費用対効果を発揮できたと聞いた。他都市の実施事例も調査研究していきたい」

つまるところ、私たちが計画に求めているのはWhatではなくHowなのです。駐輪場を整備しなければいけません、そんなことは20年前から言っていることであって、聞きたいのは具体的にこれこれこういうやり方が有効と思われるのでやってみます、あるいはいままではこういうやり方でこれだけの成果を上げています、という話なんですよね。

中村満市議(公明、中村区選出)「今回、名古屋市自転車活用推進計画、これをしっかり読んで、正直に言って非常に腹が立っている。なぜかというと、例えば運転手さんに、この世の中で一番怖いものは何と聞いたら、自転車と言う。ルールを守らないし、後ろからも前からもどこからでも来る、何かあったらみんなこちらの責任になっちゃうと。僕も10年間、交通事故ゼロの日に街頭に立ってしっかり自転車、車、歩行者を見ているが、あまりにもひど過ぎるというのが実感。逆走、イヤフォンでラジオを聴く、信号を守らない。それから歩行者とぶつかりそうになったら本来は一旦降りなければいけないがベルを鳴らしてどかしている。こういったところを毎日毎日見ていると、もちろん自転車は庶民の足であって健康増進にも役立つ、すごく大事なものだが、活用と同時にもうそろそろ本気になってマナーの問題、交通事故をどうやって防いでいくかということを計画に入れていただきたい。これは警察の領分だから行政がやらなくてもいいという態度ではいけない。計画を読む交通ルールが分かりにくいと書いてある。うん、分かりにくいと思う。今日この中で、自転車に乗って来ている方でもルールがあんまり分からない人が多いと思う。分かったとしても守らない。こういった現状を名古屋市としてどう考えているのか」

路政部自転車利用課長「自転車がマナーを守っていないということは私もよく聞く。ルールの徹底、安全意識の向上というのは非常に大事。所管であるスポーツ市民局のほうに問い合わせたところ、まずマナーは子どもの頃から身につけることが大事だということで、小学生、中学生、高校生については交通安全教室を年間に241回行っている。また小学生と高齢者についてはヘルメットの着用が努力義務になっていて、これについても自転車の交通安全講習会を小学生、高齢者向けに開催して啓発していると聞いている」

中村委員「講習会のことは知っている。3年のうちに2回違反すると6000円払って講習を受けなきゃいけないという制度があるが、1年間で受けている人というのは何人ぐらいいるのか」

路政部自転車利用課長「講習については平成27年から警察で実施しており、愛知県警によると受講者数は名古屋市内で14名、愛知県内で32名」

中村委員「毎日の違反を見ているとそれでは少な過ぎると感じる」

無秩序に走る自転車を見て腹を立てる気持ちはよくわかるのですが、自転車の殺傷力の小ささ(名古屋では自転車が人を殺したことは長い間ありません)や免許制度が採用されていない点、専用走行空間の欠如など考えあわせれば、クルマと同じレベルの秩序を利用者に求めてもしょうがないのですよね。それに、ルールがわかりにくいというのは、ルールそのもののわかりにくさももちろんあるでしょうが、ルールが想定する「かくあるべき」走行空間と実在の走行空間の乖離からきていることも多いです。きちんと自転車専用の走行空間を用意することで、「こういうときはどう走るんだっけ?」と迷うことはぐっと少なくなります。

長くなってきたのでいったん切ります。



コメント